スマートフォン版へ

生産者賞の変遷、その2

  • 2006年06月13日(火) 23時49分
 前回に引き続き、生産者賞のことについて書く。JRAの馬券売り上げが史上初めて4兆円の大台に乗ったのは1997年のことだ。それを受けて、1997年から98年にかけて、交付額がさらに上昇した。今にして思うと、当時は本当に手厚い金額が並んでいたものである。

 1998年度といえば、スペシャルウィークがダービーを制覇した年だ。この98年から2001年までの4年間が生産者賞のピークだった。以下に当時の交付金額を列記してみる。

◆一般生産者賞
A、一般競走(新馬、未勝利クラス)
1着30万円、2着12万円、3着8万円(混合レースの場合)
1着27万円、2着11万円、3着7万円(混合レース以外の場合)

B、一般競走(1勝以上)
1着51万円、2着20万円、3着13万円(混合レースの場合)
1着45万円、2着18万円、3着11万円(混合レース以外の場合)

C、特別競走(オープン特別以外)
1着86万円、2着34万円、3着22万円、4着13万円、5着9万円(混合レース)
1着77万円、2着31万円、3着19万円、4着12万円、5着8万円(混合レース以外)

D、オープン特別
1着136万円、2着54万円、3着34万円、4着20万円、5着14万円(混合レース)
1着125万円、2着50万円、3着31万円、4着19万円、5着13万円(混合レース以外)

E、その他の重賞(GIII、障害など)
1着235万円、2着94万円、3着59万円、4着35万円、5着24万円(混合、国際レース)
1着220万円、2着88万円、3着55万円、4着33万円、5着22万円(混合、国際レース以外)

F、GII競走
1着310万円、2着120万円、3着78万円、4着47万円、5着31万円(混合、国際レース)
1着290万円、2着120万円、3着73万円、4着44万円、5着29万円(混合、国際レース以外)

G、GI競走(フェブラリーS、NHKマイルC、秋華賞、エリザベス女王杯、安田記念、マイルCS、スプリンターズS、高松宮記念、朝日杯フューチュリティS、阪神ジュベナイルF)
1着480万円、2着190万円、3着120万円、4着72万円、5着48万円(以上、混合、国際)

H、GI競走(桜花賞、皐月賞、オークス、菊花賞)
1着450万円、2着180万円、3着110万円、4着68万円、5着45万円(以上、内国産馬限定)

I、GI競走(JC、有馬記念、宝塚記念)
1着800万円、2着320万円、3着200万円、4着120万円、5着80万円

J、GI競走(ダービー、天皇賞)
1着740万円、2着300万円、3着190万円、4着110万円、5着74万円

 長くなったが、ざっとこういう金額である。これに、「繁殖牝馬所有者賞」がまったく同額で交付されていた。前回で触れたように、現在はかつての一般生産者賞が「生産牧場賞」と名称を変え、著しく減額されてしまったわけだが、当時は繁殖牝馬所有者賞と同額の交付基準だったのである。

 のみならず、当時、他に二つの項目が存在した。すなわち「父内国産馬生産者賞」及び「市場取引馬生産者賞」である。

 これらは、前述の一般生産者賞や繁殖牝馬所有者賞と比較すると金額は概ね3分の1程度とはいえ、それでも1着の場合、一般レース(新馬、未勝利、1勝以上)で13万円(父内国産)と14万円(市場取引)。それが特別レース(オープン含む)になると25万円(父内国産)と26万円(市場取引)、GIIを含む重賞レースで80万円と85万円、GIになると200万円(父内国産)と210万円(市場取引馬)にまで増額されていた。

 さらにこの2つの生産者賞は、レースの格に関係なくすべて5着まで交付されており、例えば新馬や未勝利戦でさえ、4着で2万円、5着で1万円というように、金額は小さくとも、生産者の懐を潤してくれた。

 多くの競走馬にとって、さしあたり手の届きそうなレースは特別あたりまでで、そうした現状に配慮してか、今でも下級レースではそれほど大きく減額されたわけではない。

 だが、レースの格が上がれば上がるほど、今の数字と当時の数字の格差が大きくなる。分かりやすく説明するために、具体例を挙げると、同じオペラハウス産駒のメイショウサムソンとテイエムオペラオーとの比較で言えば、メイショウサムソンの皐月賞とダービー連覇による生産牧場賞と繁殖牝馬所有者賞は、計1000万円。だが、テイエムオペラオーの場合には、皐月賞だけで450万円+450万円+210万円(一般生産者賞と繁殖牝馬所有者賞、市場取引馬生産者賞)の計1110万円が交付されていたのである。

 25戦14勝、2着6回、3着3回。GI競走を勝ちまくったオペラオーが獲得した本賞金は20億円を超えるが、生産者賞もまた1億円を超えたとも言われている。しかし、今の交付基準では、おそらく生産牧場賞と繁殖牝馬所有者賞を合わせても1億円を稼ぎ出すのは不可能で、生産馬が走れば走るほど、その圧倒的な金額の落差にため息さえ出てくるのだ。

 ところで、一般的に生産者は中央偏重の傾向が強く、地方競馬を敬遠しがちである。大半の生産者は、「出来れば生産馬を中央競馬へ送り出したい」と考えている。知名度やマスコミの扱いの差ももちろん否定できないが、本音の部分には、この生産者賞の存在が大きいと言われる。残念ながら、生産者賞の有無が中央と地方への関心度の差となってきた側面があるのは否定できない。

 2001年までは、地方競馬で実施される「認定競走」にも生産者賞が交付されていた。金額は年々減額され、しかも最終的には「1着馬の生産者のみに交付」というところまで引き下げられてきたとはいえ、まだ「あるだけまし」であった。しかし、それも翌2002年より廃止されると同時に、一般レースからGIまで、全体の見直しに着手し総体的に減額されるようになったのがこの年である。その後漸減を続けた生産者賞は、ついに昨年より、前回触れた交付基準まで引き下げられ、現在に至っている。もちろん、これも今後の馬券売り上げの推移如何では、また「再度見直し」という事態にもなりかねない。予断を許さない状況なのである。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

バックナンバー

新着コラム

アクセスランキング

注目数ランキング