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一番牧草、収穫最盛期

  • 2006年07月04日(火) 23時49分
 例年よりも約半月ほど遅れて、ようやく一番牧草の収穫が本格化した。

 例年6月初旬から中旬は割に好天に恵まれる北海道だが、今年はどういうわけか梅雨に似たすっきりしない日が続き、牧場関係者は気を揉む毎日だった。低温と日照不足にたたられても牧草は日々成長する。ようやく天候が安定したかに見えた6月末には、一番牧草は、もうかなり収穫時期が遅れた(したがって嗜好性が良くない)状態になっていた。

刈り遅れた牧草

 かつて、一番牧草の最盛期は7月であった。それが近年、少しずつ刈り取りの時期が早くなり、6月中旬には本格的に開始する牧場が増えた。その最大の原因は、雑草の混入である。主要な牧草の品種は、チモシーやオーチャードといった種類だが、それらが生育するよりずっと早く雑草が成長し、種を落とす。その結果、本来の牧草が雑草によって駆逐される深刻な事態が生じている。「たくましさ」の代名詞として「雑草のように」などと使われるが、この比喩表現ほど今の時期に実感できる言葉はない。
 
 さて、まず牧草の収穫には最低でも4日間の晴天が必要だが、それを判断するのは「週間予報」である。インターネットや電話、テレビなどで情報を仕入れ、刈り取りから収穫までの日程を組む。初日→刈り取り、二日目→反転、三日目→反転。そして四日目にロール状に梱包し収納する。これが大まかな作業工程である。

反転作業 ロール牧草に製品化する

 ところが、週間予報は、あくまでも“週間”予報であって、「週の後半は予報の精度が低下しますのであらかじめご承知下さい」などと予防線を張られる。それでも、刈り取りの時期が大幅に遅れてきているため、焦燥感にかられる牧場関係者は、ついついこの週間予報を信じてしまう。その典型的な例が先週の木曜日と金曜日であった。

 その時点での週間予報によれば、今週半ばまで続けて曇りもしくは晴れという予報。雨は降らない(はず?)。牧草は何より雨がもっとも難敵である。「雨さえ降らなければ作業は進む」とばかりに、この週間予報を盲信した人々は一斉に刈り取りを開始した。遅れを取り戻すべく、一気に広大な面積を手がける牧場も少なくなかった。

 天候さえ続くのであれば、作業日程をずらして毎日一定の面積を刈り取ると、四日目からは毎日乾草になった製品が収穫できて行くことになる。刈り取りは土曜日あたりまで続いた。しかし、予報とは裏腹に天候が崩れ出したのが月曜日である。この日、秋田沖に停滞する低気圧から伸びてきた雨雲が日高地方を直撃し、かなりの面積の牧草が雨に濡れた。

 こうなると、天気予報の情報源に文句の一つも言いたくなるのが人情で、現に私の周囲でも「いったいどこ見てんだ、馬鹿野郎!」と地元の測候所に猛抗議した人間が複数いる。

 二日目か三日目での降雨は、相当な打撃になる。しかも夕方から振り出すか、午前中から振り出すかにより、作業が大幅に変わってくる。厄介なのは、朝の晴天が徐々に曇り始め午前中から雨が降り出すケースである。ちょうど3日月曜日がそんな天候だった。

 広げるだけ広げた牧草は、簡単に集草できない。いくら最新のトラクターと作業機をもってしても、天候の急変には勝てない。この日、突然降り出した雨に多くの牧草が襲われ、その結果、ただでさえ刈り遅れた牧草がさらに質を落としてしまった。


 雨に濡れた牧草は、まず「敷きワラ」行きである。降雨量にもよるが、雨に当たった牧草はまず色と香りが悪くなり、嗜好性が極端に低下する。良質の牧草を収穫するためには絶対に雨に濡らしてはならないのである。
 
 ところで、来週はいよいよ日本最大の市場に成長した「セレクトセール2006」が7月10日〜12日までの三日間にわたり、苫小牧市のノーザンホースパークを会場に開催される。

 その次の週、7月17日と18日は静内の北海道市場にて「セレクションセール」が開かれる。生産馬を上場する予定の牧場も多いし、馬主や調教師などの関係者と面談する予定の人も数多い。それまでに何とか一番牧草を終えたいと考えるところは誰しも同じなのだ。しかし、果たして来週月曜日までに終わるかどうか微妙な情勢になってきた。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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