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「セレクトS」と「セレクションS」

  • 2006年07月18日(火) 23時49分
 前回は「セレクトセール2006」の初日、1歳馬の市場が終了した時点での出稿だったため、「その1」とさせていただいた。しかし、一週間後の17日(月)と18日(火)は、静内に場所を移し、「セレクションセール」(主催・HBA日高軽種馬農協)が開催中である。したがって、こちらの様子にも触れる必要があるため、今回は「セレクト」と「セレクション」双方について書くことにする。

 「セレクトセール2006」の盛況ぶりは、すでに様々な報道を通じて競馬ファンならずとも遍く知れ渡ったことだろう。11日、当歳初日に登場した「トゥザヴィクトリーの2006」が国内市場の最高額を更新する6億円で落札され、そのニュースは瞬く間に日本中へ伝えられた。競馬の世界にとどまらず、一般の社会ニュースとしても大きく取り上げられたことで、三日間の総売り上げも100億円の大台に乗ったことと相俟って、かなり強烈なインパクトを与える結果になった。

 この数字だけを見るならば、生産地でも確実に景気が上向きつつあるのでは?と捉える向きも出てくることだろうが、実は「社台グループ」と「非社台グループ」との格差は縮まるどころか拡大する一方なのだ。基本的に、社台グループの上場馬は競り上がり、非社台の上場馬は苦戦したと言い切って差し支えない。それが今年のセレクトセールの偽らざる印象である。三日間を通じて、その印象は不変であった。果たして「予想外に高い価格で落札された上場馬」が、非社台の牧場からの上場馬にいったいどれだけいただろうか。3歳春のクラシック完全制覇で久々に日高は活気づいたとも報じられるが、どうにも「セレクトセール2006」の落札結果を見る限り、そうそう簡単に社台グループの牙城は揺るがぬことを改めて思い知らされた気がする。(その辺の詳しいデータは、「馬市ドットコム」のブログにて分析されているので参照されたし)

 その一週間後の今週は、前述のように静内の北海道市場にて「セレクションセール」が開催されている。こちらは、やはり「セレクション」とは銘打ちながらも、先週の「セレクト」と比較することさえ野暮に思えるほどの価格差になる。

 とはいえ、初日は当歳168頭が上場され、69頭が落札。売却率41.1%、売却総額9億1833万円(税込み)という数字は、昨年よりもかなり良好な結果である。売却率で6.2%、総額で約1億7500万円余も上回っている。上場頭数が10頭減、落札頭数が7頭増の結果がこの数字になったわけで、これは健闘だろう。

 さすがに最高価格馬は4200万円(税込み)にとどまったが、価格帯では2000万円台から1000万円台に万遍なく落札馬が並び、一応の結果は残した。上位価格馬10傑(税込み2100万円以上の落札馬、11頭いる)を見ると、やはり日高の市場であっても、社台系種牡馬が主流である。フジキセキ2頭、スペシャルウィーク3頭、ネオユニヴァース2頭。その他4頭は、タイキシャトル、アグネスフライト、アグネスデジタル、コロナドズクエストが各1頭ずつだ。

セレクション当歳、せり風景

 さて、こうした結果から、翌18日の1歳市場に期待がかかったのは当然で、昨年以上の売り上げが見込めるのではないか、と予測する関係者が多かった。それを裏付けるように、比較展示の段階から、久々に多くの顧客が会場に詰め掛けているような印象があった。「今日は人が多い」と明るい声で言葉を交わす生産者を何人も見かけた。このままの勢いで、1頭でも売り上げを伸ばして欲しい、と祈らずにはいられなかった。

比較展示後、各馬は速歩を見せる

 しかし、確かに終わって見れば188頭上場で115頭の落札だから、売却率は61.17%になるものの、総売り上げは伸び悩み計12億2934万円(税込み)。昨年の実績、12億8190万円にわずかに届かずに終わった。売却率は5%ちょっと上昇したが、平均価格はやや下がった形である。

 最高は上場番号132番「レアシングチェリーの17」(父フォーティーナイナー、母レアシングチェリー、牡・鹿毛)の4935万円。新ひだか町三石の設楽牧場生産で、ノーザンファームが落札。ただしこの馬だけが抜けて高く、次点は2100万円(3頭いる)まで間が開いてしまう。詳細な分析を待ちたいが、高額馬が昨年よりも少なかったことが総売り上げの減少につながったのかも知れない。

展示風景1歳

 なお、驚いたのは、アラムシャー産駒の健闘だ。8頭が申し込み、7頭が上場されたが、すべて落札された(しかも7頭とも牡馬である)。そのうち、中央競馬会の育成馬として4頭が購買されたので、来年のブリーズアップセールにはこれらがまとめて登場することになる。今シーズンから再度アイルランドにて種牡馬生活を送るこのスタミナ色たっぷりの元JBBA種牡馬の産駒たちが父の去った後の日本でいったいどんなレースを見せてくれるか楽しみになってきた。何より、JRAの並々ならぬ力の入れようがモロに出た購買だった。

 ところで、来月下旬には、サマーセールがこの会場で開催される。もとより“客層”はセレクトからセレクション、そしてサマーセールへと進むに従い、かなり変って行く。もちろん、上場馬もまた、「選ばれた馬」から「種種雑多な馬」へと移行する。いわば日高にはザラにいる血統のごく普通の馬たちが大挙して登場してくるのがサマーセールである。ある意味で生産地の今後を占うためには、こちらの方がより象徴的な市場になるはずだ。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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