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サマーセール、滑り出し好調?

  • 2006年08月22日(火) 23時51分
 21日(月)より、サマーセールが開幕した。この原稿を書いているのは火曜日。まだ初日が終わったばかりなので、全体を通しての総括ができないのだが、初日に限ってはまずまずの結果を残したと言える。上場227頭(牡117、牝110)、落札73頭(牡43、牝30)で、売却率は32.16%。先月に行なわれたセレクトセールやセレクションセールなどから見ると、とても比較にならない数字だが、しかし、昨年のサマーセールの初日は、上場227頭(奇しくも今年と同じ頭数である)で、落札63頭、売却率27.75%に終わっていた。昨年の初日の場合、牡牝の割合では断然牡馬の方が多かった(134対93)にもかかわらず、この売却率だったことを考えると、落札頭数の10頭増はそれなりに評価できる。

 売り上げも昨年は3億880万5000円(税込み)に対し、今年の初日は3億5269万5000円(税込み)。約4400万円近い伸びとなった。ただし、落札馬の平均価格は微減した。

レモングラスの2005


 最高価格馬は167番「レモングラスの2005」(父アグネスタキオン、牡)で1900万5000円(税込み)。日高町(旧・門別町)の白井牧場からの上場馬で、落札は日本中央競馬会。順調に行けば、来春のブリーズアップセールに登場するはずだ。

 初日だけでも、上はこの価格から下は21万円までいて、実に幅広い。要するに「玉石混交」なのだが、主流は日高を中心にした「普通の血統の馬たち」である。抜けた良血馬や評判馬は、だいたい既に“売約済み”であり、言い換えると「この時期まで売れ残っていた馬たち」が大挙して登場するのがサマーセールなのだ。

 とはいえ、時折167番のような1歳馬も混じって出てくる。どうしてこの馬がこの時期まで残っているのか?と訝しく思えるような血統馬もいれば、これはまず売れないだろうと思わせるようなアピール度の不足した1歳馬もまた多かった。

 それでも相対的には、かつてのサマーセールと比較すると、上場馬のアベレージは確実に上がってきているように感じる。その底上げに一役買っているのが、コンサイナーの存在だ。

 コンサイナーとは、セリ上場の当歳や1歳を生産者(所有者)から預かり、仕上げて上場するまでの業務を請け負う。家族経営の多い日高の生産者が、例えばサマーセールに生産馬を上場させようとする時、かつては「引き手」の確保が難題として立ちはだかっていた。後継者不足や経営者の高齢化などにより、複数の生産馬を市場に連れて行く仕事は物理的に困難になってきていた。

展示後の速歩


 そうした生産者側の事情もあり、いわば「市場上場代行業」とでも言うべきコンサイナー業者に生産馬を預ける牧場が増えてきた。JBBA(日本軽種馬協会)からの預託料助成金なども申請すれば交付されることもあって、コンサイナー業はなかなか盛業である。

 ただ、そのコンサイナーも、市場での常連メンバーがほぽ固定してきた感があり、それに伴って個々の業者による売却率や平均価格などに優劣がつけられるようになった。預かる馬の資質にもよるので一概には言えないものの、生産者も購買者も「成績を上げているコンサイナーはどこか」ということをよく調べるようになっている。馬の仕上げ方、作り方にも落差が目立つようになっているのが最近の傾向である。

 コンサイナーは揃いのユニホームに身を包み、従事員の平均年齢は若い。個別に市場の厩舎へ目当ての馬を値踏みに訪れる顧客に相対するのも仕事なら、写真入のパンフレットを制作し、新たな顧客へアピールすることもまた仕事の一つである。

 従来、生産馬をいかに宣伝し、いかに販売するか、という視点が日高の多くの牧場にはやや欠けていた。しかし、市場に限ってはこうしたコンサイナーによる新たな動きが確実に始まっている。昨今の競馬事情からは、庭先売買の大幅な伸びは期待薄であり、そうなればなおのこと市場の重要性は増すはずである。

高校野球観戦中の人々


 最後に、初日に起こった「椿事」を一つ。お昼近くのこと、突然、大型テレビが市場の外に運び出されてきた。屋根のある休憩スペースに設置されたこのテレビ(2台)は、甲子園の決勝戦中継用だった。引き分け再試合となった夏の甲子園決勝を見たいという人のため、急遽市場に用意されたものと思われる。案の定、午後1時より始まった再試合が進むにつれ、徐々に人だかりが増えて来て、最終回の攻防の頃には市場内部よりも大きな歓声とため息に包まれた。もっとも盛り上がったのは9回表の駒大苫小牧の攻撃時に2ランホームランが飛び出し、点差が1点となった瞬間だっただろうか。まさしく「どっと沸く」という表現がぴったりの、そこだけ異空間になっていた。試合時間内と試合後の「市場売却率」にはほとんど差はないはずだが…?。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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