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「草競馬の聖地、道東」その1

  • 2006年08月29日(火) 23時50分
 かねてより知りたいと思っていることがある。それは日本における草競馬の分布である。いつどこで、どんな草競馬が開催されているのか。そして、それはどれほどの歴史を持つのか。そんなことに興味が湧く。

 日本全国どこでも昔は行なわれていたであろう草競馬だが、今はどうなのだろう。地理的条件などから、やはりもっとも盛んなのは北海道ということになるのだろうが、軽種馬生産の中心である胆振や日高でも草競馬は今や浦河にしか残っておらず、多くは道東地方に集中しているようだ。その方面に詳しい知人によれば、「鹿追、中標津、別海が道東三大草競馬」ということになるらしい。(因みに、読み方は、しかおい、なかしべつ、べつかい、となる。念のため)

 さて、先日(8月27日)、その中の一つ、中標津の草競馬に行ってきた。馬運車4台を含む総勢7台の車両に、馬14頭と人間25人が乗り込み、浦河からはるばる片道6時間余をかけての遠征になった。

 中標津は、簡単に言うと、知床半島の付け根あたりに位置する。人口は約2万3700人ほど。酪農の盛んなことで知られる町だ。その一角に会場の「南中競馬場」がある。ただの牧草地にしか見えないような場所だが、聞くところによればここは私有地を開放してもらって作った競馬場という。コースは一周約1000m(と言われている)。“約”というのは、たぶん誰も正式に計測したことがないから? なのだろう。そして内馬場にばんえいコースと馬運車などの駐車スペースが設けられている。

平地、ばんえいコース


 ここで開催される草競馬の正式名称は「標津・中標津連合、馬事競技大会」。主催は「標津・中標津地区馬事愛好会」。今年で第31回目を数える。午前10時より第1Rがスタート。以降、概ね午後3時半から4時までの間に全部で33Rも行なわれる。つまり、外周では平地競馬、内馬場ではばんえい競馬と、同日二本立てなのである。33レースのうち、平地は16、ばんえいは17という内訳だ。レース順もほぼ交互に並べられている。

 昼に出発した私たちが現地に到着したのは前日夕刻。ここでテントを張り、夜を明かした。昼間はかなり気温が高かったのが、日が沈むと急激に涼しくなり、やがてセーターが欲しいくらいにまで気温が低下した。虻や蚊などはほとんど飛んでおらず、同じ北海道でもここは一歩気候が先に進んでいることを感じた。

 翌朝7時頃より馬運車が続々と集まってきた。ばんえい用の大型馬、トロッター(速歩と繋駕の二種類のレースが組まれている)、サラブレッドやポニーなど、様々な大きさの馬が運ばれてくる。やがて駐車場が満杯になるくらいの馬運車の列と、夥しい数の人馬とで場内は俄然活気が出てきた。

到着する馬運車
馬運車内の馬


 7時半より受付開始。協議参加料は1頭5000円である。草競馬は当然のことながら馬主、調教師、騎手、厩務員の1人4役というケースも多い。8時半になるとエントリーしてきた馬を馬体審査してレースごとに振り分ける。例えばポニーとは言っても、大きさや体格はまちまちで、しかも平地とばんえいとに分かれているため、審査は不可欠だ。近年主流になってきたポニーばんば(橇を引く)だけでもA、B、Cの3グループにレースが分けられている。

待機中の馬たち


 どちらかというと、道東は平地よりも、ばんえいが主流だという。そして、トロッター。今はなくなった繋駕レースも、速歩も、ここでは愛好家によって伝統の技? が守られている。したがって外周コースを使用したレースでも、いわゆる普通のレースは6つしかない。サラブレッドやアラブなどの今の競馬を支えている軽種馬のレースに至っては、わずか午前と午後の各1レースのみ。圧倒的に軽種馬以外の馬が多いのだ。

24時間テレビスタッフ


 ちょうどこの日、日本テレビの「24時間テレビ」を中継するスタッフが来場していた。馬体審査の行なわれている頃、最初の映像を送っていたので、ご覧になった方もおられるだろう。馬場は手作りで内外の埒などはとても競馬場などと言える代物ではない。また走路も、砂というより土と表現すべきで、小石がゴロゴロ落ちているようなラフなコースだ。前を走る馬が蹴り上げた小石が後方を走る馬の騎手に当たり、ゴーグルが割れた、などというエピソードもあるらしい。もちろん私は知らないことだが、おそらく昭和20年代くらいの地方競馬は、こんな感じのところで行われていたのだろうなぁ、とふと思った。確かに施設は三流だが、ここでは異常とも思えるほどの活気のある草競馬が行なわれている。午前10時、いよいよ第1Rがスタートである。(以下、次号)

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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