スマートフォン版へ

中標津から別海へ

  • 2006年09月19日(火) 23時40分
 9月16日と17日の二日間にわたり、道東の別海町でまた草競馬が開催された。前回の中標津から中2週のローテーションである。中標津と別海は隣り合っていて競馬場(会場)同士の距離もたぶん30kmあるかどうかといったところ。本州の人々から見たらほとんど区別のつかないような地名だろう。

 もちろんそれは私たち日高に住む人間にとっても同じことなのだが、この2つの草競馬は似ているようでいて、実はかなりの違いがある。

 まず会場となる競馬場。中標津は以前紹介したように、外埒も内埒も杭を等間隔に立てて、ロープで結んだだけのようなラフな作りだった。しかも、1〜2コーナーにかけては外埒すらなく、出走馬がコース外へ逸走してしまう危険さえあった。その点、この別海はまだ少なくともコースだけは完備している。外埒、内埒ともに立派なもので、外周約1000mある。そして内側にはばんえいのコースが設置されている。しかもばんえいコースのスタート地点にはゲート(ガシャッと開く本格的なものだ)さえ設置してあるのには驚いた。もちろんレースに使うのだ。

立派に作動するばんえいゲート

 二日間の初日は外周を使用した平地競馬と、繋駕や速歩レースで計20レース。二日目が、ばんえいのみでこちらも20レース。つまり、一日33レースをこなしていた中標津と異なり、ここではゆったりとそれぞれが別々の日に開催されるわけである。

 別海競馬の大きな特長は、町の産業祭りの中の一つであるということだ。会場全体はかなり広く、競馬場はそのうちのごく一部分でしかない。産業祭りであるから、町の農水産物などが大量に販売され、さながら町中の商店がここに移動してきたのか、と見紛うほど。テントが立ち並び、ありとあらゆる店が軒を並べる。名産の島海老、鮭、牡蠣、蟹などを扱う店や乳製品販売コーナーなど、驚くほどの数である。

ありとあらゆる店が軒を並べる


海産物や扱う店や乳製品販売コーナーなど

 出店スペースの真ん中にはイベント広場があり、そこではブラスバンド演奏や創作太鼓、キャラクターショウなどが披露されている。さすがに来客数は中標津よりも断然多い。

 その中の一メニューが草競馬である。、そして中標津でもそうだったように、ここでもやはり平地競馬より圧倒的にばんえいの方が主流である。出走馬は、初日55頭に対し、二日目のばんえい96頭と聞いた。メンバーは大部分が中標津にも出走しており、ほとんど顔なじみばかりといった感じである。

 中標津にも来ていた新田敏和氏(紋別市のガラス屋さん)が、ここにも遠征していた。愛馬「トキドキ(時々)トップ」号とともに…。また、今回お話を伺ったのは、札幌から遠征してきたという坂爪重政氏。64歳。驚いたことにこの人は元タクシー運転手で、札幌市白石区の自宅で芦毛のこの「ヒーロースピード」号を飼育しているという。いったいどんなお宅なのか。実はとんでもない豪邸と広大な敷地をお持ちの方か、などとあれこれ想像してしまったのだが、未だに具体的なイメージが湧かない。札幌市白石区…?。まるで街中なのだが…。

新田敏和氏と「トキドキトップ」号


坂爪重政氏とヒーロースピード号

 それにしても、よくもまあここまではるばると来たものだ、と感心するやら、呆れるやら。札幌〜別海は乗用車で移動するだけでかなりの所要時間となる。もちろん浦河から別海までの距離よりも遠い。ましてこの大型馬を連れてとなると、その苦労は並大抵ではなかろう。しかしご本人は「中標津でも出走した」と平気な顔で言ってのける。毎年恒例の行事なので、もはや何とも思っていないご様子なのである。

 坂爪氏は前夜に札幌を発ち、早朝、別海到着。馬運車は知り合いを頼み、その方と二人連れである。レースの際には、その方が口を持ったり、馬を引いたりして手伝う。まあ言うなれば厩務員兼運転手といったところか。坂爪氏は馬主と調教師、騎手を兼ねる。見た感じで言うと、新田敏和氏よりもずっと高齢に見えるが、内面に秘めている勝負へのこだわりは坂爪氏の方が遥かに強そうだ。毎日、馬の運動は欠かさないらしいし、表情も厳しい。実はこうしたご年配の方が中標津でもここでも少なくないのだ。

 おそらく他にもまだまだたくさんいるだろう、草競馬に魅せられた人々。参加することに意義がある、とばかりに、初日の平地競馬では東京からわざわざレースに出るためだけに駆けつけた金子茂氏というお方もいた。この人、実は某有名企業の管理職だそうな。投宿先は同じ別海町にある野付ライディングファーム。ここの当主、佐藤祥悦氏が金子茂氏の乗り馬を用意してくれた。そうした草競馬ファンでこの連休、彼の営む民宿(乗用馬生産、サラブレッド生産とともに民宿もある多角経営?)は満室だったという。ちなみに野付ライディングファームの生産馬、シンハルカジョウは8月20日、無事に札幌の未勝利戦を勝ち上がった。ブラックタキシード産駒の3歳牝馬。美浦・故吉永正人厩舎所属。オホーツク海を見ながら育ったサラブレッドは日本でもたぶんここにしかいないのではなかろうか。

ともあれ、「知る人ぞ知る」といったレベルかも知れないが、道東の草競馬は中標津といい別海といい、実に奥が深くて魅力的だ。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

バックナンバー

新着コラム

アクセスランキング

注目数ランキング