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賞金削減と増額

  • 2006年09月26日(火) 23時49分
 このところめっきり涼しくなった北海道は、もう秋本番である。来月早々から各地で紅葉が見られるようになる。暑かった夏も終わり、そろそろ家庭ではストーブのお世話になる季節が近づいてきた。そういえば、大雪山系の旭岳では先日山頂に初冠雪を観測したそうな。まだ9月だというのに…。ここではすでに五合目まで紅葉が進んでいるという。これから徐々に紅葉前線は山麓へと降りてくることになる。今年は灯油の値上がりが家計を直撃しそうで、冬の訪れにやや恐れをなしているところだ。

 さて、すでに多くの競馬ファンの間では知られていることだが、岩手競馬の危機について地元紙が連日スペースを割いて報道し続けている。「岩手日報」「盛岡タイムス」などに加え、「朝日」「読売」「毎日」などのローカル紙面でも、競馬問題が大きく取り上げられている。

 岩手の危機的状況は、端的に言うと「収支が赤字ならば廃止する」ことを知事が明言し、事実上“退路を絶つ”姿勢を明らかにしたことである。その結果、現状の馬券売り上げ金額から逆算した開催経費の枠内にすべての予算を圧縮する必要が生じており、例えば、レースの賞金や諸手当などの「賞典費」も、今年度の約32億円から一気に8億円ほど減額し24億円程度とする改定案が関係者に示された。

 馬主会を始め、厩舎関係者は今のところこの削減案に真っ向から反対する立場を堅持しており、話し合いは平行線のままだという。「賞金の減額は出走馬の減少に繋がり、その結果レースがさらにつまらないものになって馬券売り上げの減少がいっそう進む」というのが反対の理由である。

 過去、賞典費を削減した結果、馬券売り上げを回復させた例はたぶんなく、この荒療治は岩手競馬にとっては必ずしも将来につながる施策とは思えない。だが、そんなことは主催者とて百も承知で、増田・岩手県知事は「廃止を避けるためには収支均衡が最重要課題であり、そのためには現状の開催経費を大幅に圧縮しなければ赤字が出てしまう」と強固な姿勢を貫くつもりのようだ。

 県にとっては、岩手競馬を廃止することになると、膨大な債務の整理などで372億円が必要になるとの試算もあり、地方財政の厳しい昨今、できれば「縮小均衡を図って、何とか自立して継続させたい」のが本音のようだ。これまで廃止になった地方競馬の各県の首長と、増田・岩手県知事はそこが決定的に違うところで、廃止に伴う必要な財源の確保もさることながら、関係者2500人の失業問題も新たに浮上してくるため、県にとっても競馬問題はほとんど最大の重要課題になっているのである。

 今年、起死回生を賭けて導入した三重勝馬券とネット販売が、当初の計画通りに実績が上がっていないことから、おそらくは、馬主会も厩舎関係者も主催者の提示した開催経費削減案を呑むしか存続の道はなかろう。さしあたり、売り上げが増やせない以上、経費を減らすしか選択肢は残っていない。32億円から24億円への減額は、かなりの大鉈と言わざるを得ないが、ここをクリアしない限り、来年度の収支均衡は困難なのである。

 率にして25%カット。仮に一着賞金28万円のレースならば一気にそれが21万円にもなるほどの割合だ。レースの格により削減幅に差をつけるような調整を実施するにしても、全体で25%減額という大枠があるため最終的には総額で帳尻を合わせるより他ない。

 ところで、賞典費削減のニュースの裏で、目立たないが「賞金、出走手当アップ」に踏み切った主催者もある。岐阜県の笠松競馬場である。

 まだ地元紙の記事(ネット配信のニュース欄ではほとんど取り上げられていない)でしか読めないようだが、「12年ぶり、最大5万円」という見出しとともに、この嬉しいニュースが掲載されている(岐阜新聞、中日新聞)。来月24日より実施する予定で、来年3月の年度末まで続けるという。

 9月21日の競馬議会で補正予算案が承認され、賞典費アップのために2354万円が計上された。増額の内訳は、古馬特別競走で2万円、一般競走で1万円、3歳競走3万円、2歳競走5万円(いずれも一着賞金)となっている。また、出走手当とは別に、笠松在籍馬に限り、一律3000円の在厩馬手当を支給する、とある。

 この背景には、減少し続ける在厩頭数に何とか歯止めをかけて出走馬を確保し増加させたいとの狙いがある。笠松の7月1日現在の在籍数は馬房数827に対し433頭(ただしサラ系のみの数字。他に若干数のアラ系もいる可能性あり)。最低条件の古馬レースの場合、一着賞金は15万円から16万円になる計算だが、これがどの程度の効果をもたらすのか、かなり疑問ではある。しかし、軒並み賞典費削減を断行する主催者ばかりの中で、わずかでもアップするというニュースは、もっと注目されても良い。金額はわずかでも、近年珍しく明るい話ではないか。

 こうした地方競馬の様々な動向は、生産地にも微妙に影響を与えることとなる。来月中旬には「オータムセール」を控えており、仄聞するところによれば、サマーセールでの補助馬購買を見合わせた岩手県馬主会が、このオータムセールに照準を合わせているとか。しかし競馬を取り巻く環境がことさら厳しくなっている岩手県馬主会が、予定通り本当にオータムセールにて補助馬購買を実施するかどうかはまだ分からない。補助金に頼らずとも、これはと思える馬を自ら選んでセリに参加し落札するのが本来の馬主(またはその代理人)の役割ではあるが、少なくとも岩手県に関しては、来年以降の競馬開催を担保する条件の一つが、賞典費の大幅削減案を受け入れることにあるようなので、今の段階ではまだ各馬主が本腰を入れて1歳馬の仕入れに踏み切れないのかも知れない。ともあれ、引き続き岩手競馬からは目を離せない。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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