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オータムセール総決算

  • 2006年10月24日(火) 23時50分
 今月16日より20日にかけての5日間にわたり開催されたオータムセールの結果がまとめられた。当歳と1歳、両市場を合わせたトータルでは938頭が上場され、299頭が落札。売却率31.88%、売り上げ総額12億4098万4500円で、前年と比較すると6.88%、3億907万円、それぞれ上回った。

 とりわけ、サラブレッド1歳の市場は活況を呈し、17日より20日の4日間に上場された716頭中、251頭が落札され、売却率は35.06%に上った。例年ならば、最終日ともなると数字がかなり低落する傾向にあるのがオータムセールの特徴だが、今年に限ってはむしろ最終日の20日がもっとも売却率が高かった。

 最終日にはサラブレッド1歳が174頭上場され、70頭が落札。売却率は皮肉にもこの日オータムセールの5日間で唯一40%を超えた。ただし、最終日の売り上げは1億7143万3500円。1頭あたりの平均価格は244万9050円に終わった。

 サラブレッド1歳市場に関しては、17日より20日にかけて、日を追うごとに売却率が上昇した反面、平均価格は下落するという現象が顕著であった。17日538万円、18日308万円、19日278万円、そして前述のように最終日が244万円である。17日の538万円の“原動力”となったのは、カワカミプリンセスの半弟「タカノセクレタリーの2005」(父アグネスデジタル)が記録した4882万5000円(税抜き4650万円)によるところが大きい。またオータムセール1歳市場を通じて税込み価格1000万円以上で落札された馬8頭のうち、6頭がこの日に上場されている。翌18日からはいきなり平均価格が急落しており、これはいわゆる「高馬」が出なかったことに起因する。

再上場馬1

 これらの数字から見えてくるのは、「落札頭数こそ大幅に増えたものの、価格は依然として低いまま」という現実だ。市場にほぼ連日通って取引を間近で見ていたが、競りという言葉から連想される「競り合い」のシーンは少なく、一声で落札されるケースが目立った。また、「再上場」される馬も多かった。

 再上場とは、読んで字のごとく「再び上場される馬」のことである。例えば、400万円のお代付け価格で上場された馬が、市場内で声がかからず、失意のまま外に出てくる。そこへバイヤーが現れ、改めてその馬を値踏みし、販売申込者と価格交渉をする。市場取引法では市場敷地内での個別の取引は禁止されているため、「再上場」という方法で当該馬が再び登場するわけである。

 再上場馬は、その旨を遍く知らしめるため、馬の引き手に大きく「再上場」と大書したベスト様のものを着用させ、番号順に進行する市場の途中に適宜、編入される。以前は再上場馬はその日のすべての取引が終了してから登場するのが常であったが、より合理的に処理する必要性が生じ、このような形式に変更された。データを取っていないのであまり詳細なことは分からないのだが、市場を見ていての印象から言うと、連日10頭は下らないほどの頭数が再上場され落札されていたようにも感じる。

再上場馬2

 ところで「お代付け価格」は、希望最低価格と言い換えても差し支えない。販売申し込み者が、上場馬を「せめてこれ以上で売らなければ採算が合わない」と苦心の末に捻り出すのが、これである。しかし、日高の市場においては、しばしばこうした希望最低価格さえ頭から値切られる。鑑定人が「お代は…」とやや間を置いた後に、「○○○万」と場内にコールするのだが、この「お代は…」の直後に、バイヤーから声がかかることがある。前記の例で言うと、「400万」とコールされる前に「300万!」などという金額がバイヤーから意思表示されるケースだ。

 まだ400万に対する300万ならば躊躇もしないが、これが200万や150万などという場合には、販売申し込み者はほとんど絶句してしまう。そして、一瞬のうちに「拒絶し400万からのスタートを鑑定人に要求するか、さもなくば、せっかくのバイヤーからの声に敬意を表し、200万からのスタートを受諾するか」を判断しなければならない。仮に200万円からのスタートを受け入れた場合、複数のバイヤーがこの馬を欲しているならば価格は競り上がる。しかし、希望者が一人しかいない時には、そのまま200万円が落札価格とされる。

主取りの馬を再度値踏み

 自身の上場馬に何人の購買希望者がついているか、を比較展示の際に観察するのはたぶん不可能に近く、またバイヤーも、他の競争相手と競合し、いたずらに価格が上昇してしまうのを歓迎しない傾向が強いため、オータムセールにおいては「一声で落札」というケースが多いのである。似たようなレベルの馬は他にもたくさん上場されるので、よほどのことがなければ、絞った目当ての馬を競り上がるのも覚悟で落札するほどのこだわりは(たぶん?)ない。

 なお、サラブレッド1歳251頭のうち、実に187頭が税込み価格300万円台以下の落札であった。生産コストはもちろん個々の種付け料や繁殖牝馬の減価償却費などにより異なるとはいえ、こうした実態は生産者の立場からすると相当に厳しい。全体の売り上げ総額増加や売却率向上の陰で、まだまだ多くの問題を抱えている現実が垣間見えたのも今回のオータムセールである。

 最後に、この市場にアングロアラブが4頭申し込まれ、最終日の冒頭に2頭が登場した。結果は2頭とも落札(42万円、15万7500円)された。おそらくこれらのアラブは広島県の福山競馬場に入るものと思われるが、幸多かれと祈らずにはいられない。ともかくも、この2頭は、競走馬としてデビューできるのだろうから。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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