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繁殖牝馬と現役馬、二つの市場

  • 2006年10月31日(火) 17時00分
 オータムセールが10月20日に終了したことについて先週触れたが、その翌週になって、日高では「繁殖馬セール」(10月25日、北海道市場、主催・株式会社ジェイエス)と、「ホッカイドウ競馬トレーディングセール2006」(10月27日、門別競馬場、主催・ホッカイドウ競馬トレーディングレース&セール推進協議会?)の二つの市場が相次いで開催された。

市場内風景(繁殖セール)

 北海道の10月下旬は、防寒対策を念頭に置かずに戸外で実施されるイベントのおそらくギリギリの期限だろう。幸い、両日とも小春日和ともいうべき好天に恵まれ、予定通り無事終了した。と、言いたいところだが、盛況に終わった「繁殖馬セール」とは対照的に、「トレーディングセール」の方は、何とも後味の悪い結果となってしまった。それについては後述するとして、まずは繁殖馬セールから。

 25日、北海道市場。すっかり恒例となった繁殖馬セールは、名簿上で165頭の上場馬を数え、しかも社台グループ(社台ファーム、ノーザンファームなど)を筆頭に、ダーレー・ジャパン、千代田牧場、ノースヒルズマネジメントなどの大手がこぞって上場馬を揃えたことからかなりの盛り上がりを見せた。

パドックで展示

 午前8時半より比較展示、そして午前11時より競り開始というスケジュールで始められたこの市場は、進行方法がリザーブ制度を導入していたこともあり、またそれ以上に多くの馬に活発なバイヤーの声がかかって、終了が午後5時にもなったと聞く。(私は途中で見学を断念し帰宅した)

 終わってみると、144頭(21頭欠場)が上場され、95頭が落札。うち受胎馬が120頭中80頭、空胎馬が24頭中15頭という内訳である。最高価格馬は99番クラシーク(Classique)で、アイルランド産の9歳馬。アルカセットを受胎し、最終種付け月日は5月17日。父レインボウクウェスト、母イントレピディティ。この母はイギリスオークスをはじめG1・3勝、全欧牝馬チャンピオンに輝いた実績を持つ。ダーレー・ジャパンからの上場で価格は2100万円。グローブエクワインマネージメント(有)が落札した。

繁殖セール風景

 全体では65.97%の売却率で売り上げ総額は3億6723万7500円。かなり活発な市場風景であった。場内はオータムセールよりもずっと多くの購買者(生産者が多い)がつめかけ、新しい“血”を求める人々により激しい競り合いが演じられた。

 さて、その二日後、日高町の門別競馬場にて「ホッカイドウ競馬トレーディングセール2006」が開催された。しかし、こちらは一転して何とも盛り上がりに欠ける市場となった。最終的には42頭が上場され、20頭が落札。総額2285万8500円という結果に終わった。前年と比較しても、上場頭数、落札頭数、売り上げ総額、平均価格すべてがマイナスとなり、場内にはやや白けた空気が漂っていた。

 この日、実は当初の予定では上場予定馬が計74頭もいた。ところが当日になり、32頭が突然欠場する事態に陥り、結果的に42頭となったのである。

スタンド内が市場会場に

 いったいどういう経緯からこうなったのか、について主催者からは何の説明もなく、会場は何とも言えない空気に包まれた。市場に先立ち配布された競り名簿によれば、欠場馬の多くは全国的に知られた大物馬主N氏所有の馬たちである。揃ってスクラッチするに至った理由はいったい何なのか、少なくとも市場主催者側は購買者に対して説明責任があっただろう。国内で唯一の現役馬市場であるこのトレーディングセールに本州よりわざわざ足を運んでいただいた購買者もいただろうし、「どうなっているのか」との不信感を払拭できないまま市場が始められた印象があった。

 だいたいが、このトレーディングセールの主催がいったいどこなのかが判然としない。日高軽種馬農協が人員を配置し、代金決済も行ない、市場業務を実質的に取り仕切っているとはいうものの、しかし主催とは明記されていない。冒頭に記した「推進協議会」なる団体は、長が誰で、どこに事務局があり、どのように運営されている団体なのかも詳らかではない。この中には(社)北海道馬主会を始め、北海道調騎会、北海道競馬事務所なども名前を連ねる。日高軽種馬農協の名前は一番末尾に登場するが、実質的に市場を進行するのはここ日高軽種馬農協である。どうも責任の所在があいまいな面は否定できず、実はこういう部分に大量欠場馬を出してしまった原因の一端がありそうな気もする。(名簿のどこを見ても主催する団体名が記されていないことも不可解極まる)

鑑定人、中橋渡氏(日高軽種馬農協)

 渦中のN氏にも日高軽種馬農協側にもお話を伺っていないので推測の域を出ないのだが、いずれにせよなんらかの原因、理由があってのスクラッチであろうし、ここで事後処理をきちっと行なっておかなければ来年のこの市場にも影響を及ぼすのは必至である。早急にことの真相を明らかにしていただきたいと願うばかりである。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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