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青森、1歳馬展示会

  • 2006年11月07日(火) 21時30分
 去る11月1日、青森県八戸市場にて「1歳馬展示会」が開催された。展示会とは、その名の通り「売れ残り1歳馬」を“展示”し、購買者と生産者(あるいは販売希望者)とが相対して価格交渉を行うというものである。市場の施設は使用しているが、競り市ではない。

 日高でも確か2004年だったと思うが、オータムセールが終了した後、北海道市場を会場に同様の展示会を開催したことがあった。売れ残りの1歳馬を抱える生産者と、オータムセールよりもさらに安い価格で1歳馬を求めたい購買者とが一堂に会し、中には驚くほどの高額馬も混じっていたというが、一方では「これが定着してしまうとオータムセールでの落札価格や売却率に悪影響を及ぼしかねない」という批判が根強く、以後日高では開催されていない。

 しかし現実問題として、オータムセールにおいても上場馬のうち半数以上は売れ残っており、当歳馬はともかく、1歳馬の場合は今後販売するチャンスは来年5月のトレーニングセールまで待たねばならない。

 当然、そのためには向こう半年間程度の育成費用が価格に上乗せされることになり、加えて、調教を進めていく過程での故障のリスクも発生する。とりわけトレーニングセールの近づく3月から4月にかけては、調教がかなり強くなるため、そのリスクは高くなる。それを覚悟してでも生産馬をトレーニングセールに上場させたいと希望する人よりは、たとえ思い切り“買い叩かれる”ことが分かっていても、できれば年内に売ってしまいたいと考える生産者の方が多いのだ。

 さて、八戸市場の展示会には、この日合計16頭の1歳馬が集まった。事前に作られた名簿(といっても簡単なものだが)によれば、19頭が記載され、そのうち北海道からは4頭が参加する予定だったが、当日になり1頭が欠場して3頭の出場となった。残りの13頭は青森産馬である。

 北海道組は、八戸市場に実績を持つハッピーネモファームとチェスナットファームの二つの牧場が参加した。はるばる海を越えて1歳馬を馬運車で運ぶ苦労を今回初めて目の当たりにしたが、とりわけ苫小牧から八戸までのフェリー船中が長い。午後12時に出港し、翌日午前9時半に到着とはいえ、出港前の車両積み込みと到着後の搬出? にそれぞれかなりの時間を取られてしまう。立ち通しの1歳馬たちも、車中で相当な疲労を覚えたことだろう。

待機馬房1

 現地到着は午前10時半過ぎ。すぐさま馬を降ろし、割り当てられた馬房に敷き藁を整え馬たちを収容する…はずだったが、待ち構えていた購買者にブラッシングをする間もなく、即座に3頭とも先に“展示”することになった。北海道組はここでは人気が高いのだ。

待機馬房2

 午後0時半、展示会がスタート。16頭しかいないので、じっくりと時間をかけて「個体検査」から始まった。1頭ずつ番号順に名前を呼ばれ、所定の位置に立たせた後、常歩で歩く。それを集まった購買者が丹念にチェックしながら品定めする。ここまでは市場と同じ風景である。

個体検査 常歩

 やがて、16頭の個体検査が終了し、比較展示になってからが、市場とは風景が一変する。購買者は、目当ての馬に近づき、そこでいきなり価格交渉を始める。そして、売買が成立した馬から次々に厩舎へと消えて行くのだ。

 一種のサバイバルゲームとでも言おうか。気がつくと1頭、また1頭と姿を消して行くのを横目で見ながら、じっと馬を立たせて購買者から声のかかるのを待つというのはかなり辛い。最終的には16頭中、7頭が売れたというから、売却率としてはかなり高い数字だが、価格は聞くところによると最高で250万円、最低で20万円ということだった。平均価格はおそらく100万円を切っているはずだ。

展示風景1 展示風景2

 それでも、この機会を逃せばもう販売のチャンスは遠のいてしまう。たとえ赤字でも、やはりここで声のかかった時に手放すのが現時点ではベストの選択なのである。

 なお、現地で耳にしたことだが、北海道でも同様の展示会が今年開催される予定らしい、とのこと。もしそれが本当ならばそろそろ何らかの情報が入ってきても良さそうなものだが、今日(11月7日)の段階ではまだ具体的には何も聞いていない。もし開催されるというのならば、1日でも早い方が良い。これから北海道は加速度的に気温が低下していき、日増しに寒くなるからである。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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