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羈(たづな)…1歳馬流通情報

  • 2006年11月21日(火) 19時00分
 先月開催されたオータムセールをもって今年度の市場はすべて終了し、以後は各個に未売却馬を販売することを余儀なくされる。年末まであと1か月余。先ごろ青森の八戸市場にて実施された「未売却馬展示会」はついに日高では開催されず、これから年の暮れまでの期間、各生産者は売れ残り1歳馬の処遇をそれぞれ考えなければならない。

 よほど施設と労働力に余裕にあれば別だが、生産だけを生業にしている家族経営の生産牧場では、今の時期に至っても1歳馬が残っているのはかなり厄介な話である。それも牡馬だったりすればなおのこと。まず頭数には関係なく単独の放牧地を占領されるし、日々の放牧や収牧の際には危険を伴うようになる。まして、残っているのが1頭だけの場合は(こういうケースがままある)体力をつけてうるさくなっている上に、1頭だけの生活によるストレスも加わり、毎日生産馬と格闘するような生活になる。かくして「誰でもいい、いくらでもいいから持って行ってくれ」という心理状態に陥るのである。

 さて、そんな折、日高と胆振、十勝の各軽種馬農業共同組合が11月1日現在で各生産牧場に残っている未売却馬を収録した「羈(たづな)」という冊子を発行し各方面に送付した。A4判で約200頭の1歳サラブレッドがここに掲載されており、アイウエオ順で生産者(飼養者)名から検索できる索引と、父馬名から検索できる名簿との2本立てで、利用者の便宜に配慮している。

冊子『羈(たづな)』の表紙

 価格は★印で分類されており、★が〜199万円、★★が200〜399万円、★★★が400〜599万円、★★★★600〜799万円、★★★★★800〜999万円、★★★★★★1000万円以上、という表記である。またこれらとは別に「問い合わせ」となっている馬も多く(全体の約3分の1程度いる)、これらは価格を名簿に明記せず「個別に各牧場へお問い合わせ下さい」という意味のようだ。

 ちなみに★1つの希望価格を掲げている馬は30頭もいない。そして★2つが68頭。つまり全般的になかなか強気の価格設定になっているのである。中には★4つ、★5つなどという“高額馬”もいる。

冊子を開くと、右端の欄には価格を表す★印が

 さて、未売却馬をここへ掲載している牧場は全部で111牧場。1牧場当たり平均2頭弱の計算になるが、中には3頭、4頭というケースもあり、最大は7頭。生産馬を売りあぐねている牧場がいかに多いかがここにも表れている。

 種牡馬別で見ると、アグネスゴールド5頭、アサティス3頭、アジュディケーティング4頭、エイシンサンディ5頭、グランデラ4頭、クリプティックラスカル4頭、コロナドズクエスト3頭、サッカーボーイ7頭、ジョリーズヘイロー5頭、スキャン4頭、スクワートルスクワート4頭、タイキブリザード4頭、ティンバーカントリー6頭、デザートキング4頭、トウカイテイオー4頭、ナリタアトラス3頭、ニューイングランド3頭、ハンセル4頭、ブラックタキシード3頭、ヘクタープロテクター3頭、マイネルラヴ6頭、マリエンバード3頭、ミラクルアドマイヤ7頭、ミレニアムバイオ3頭、メジロライアン4頭、リンドシェーバー3頭、といったところが目立つ。また、200頭のうち、牡馬は数えてみると78頭いた。決して売れ残っているのが牝馬ばかりではないことが見て取れる。

 強気の価格設定を崩さない生産者もいれば、本音では「この際いくらでもいいから売りたい」と考えている生産者までまさに千差万別であろうが、1つだけ共通しているのは、これらの生産馬を今後抱えている限り、ますます手間と資金を費やす結果となることだ。さしあたり、牡牝に関係なく初期調教に移行しなければならない時期を迎えており、今後は育成牧場に移動しての営業活動となるだろうが、「いざという時は自分の服色で走らせる(つまりオーナーブリーダーということ)」くらいの覚悟をしなければ「買い叩かれる」可能性が高い。地方競馬の需要が確実に減少しつつある昨今、売れ残り1歳馬にとっては厳しい年の暮れとなりそうな気配である。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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