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帯広情報

  • 2006年12月12日(火) 23時50分
 ばんえい競馬の存続運動が依然として熱心に繰り広げられている帯広市周辺。先週からは「雪に願うこと」の原作者、鳴海章氏が競馬場の道路向かいに「団結小屋」を設立し、活動を始めた。この土地は十勝農協連の所有で、かなり広大な面積を有する。その昔、帯広で平地競馬が開催されていた時代(道営)には駐車場として使われていたというが、帯広がばんえい専用となった現在は駐車場が入場門東側に移動したため、まったくの空き地である。

 その一角に鳴海氏はとある建設会社から貸与されたというプレハブ小屋を置き、マスコミや来訪者への対応をしている。入口には「ばんば応援連絡会事務所」と記されており、ここがばんえい競馬存続運動の“総司令部”として機能している…と書きたいところだが、どうも鳴海氏にはそこまでの気持ちはなさそうで、この拠点で独自の活動を展開していると言った方が近い。

団結小屋

 むろん鳴海氏は帯広在住の小説家として、いわば地元の文化人の代表格である。存続運動をとりまとめリードするにもっともふさわしい立場だと多くの関係者から目されており、知名度としては申し分ない。何より話題になった映画の原作者というのは、存続運動のためにこれ以上の武器はないとさえ思える。しかし、どういうわけか、ご本人は小屋設立と同時に開始したブログ上でもはっきりと「自分にそんな力量はない」と言い切っている。何とも残念に思えてならない。

鳴海章氏

 ところでややフライング気味の先走った報道により、ソフトバンク系列会社がばんえい競馬支援に名乗りを上げたことはすでに周知の通りだろう。同社からの支援の内容や方法などまだまだ詳らかではないが、とりあえず心強い味方を得たと歓迎するムードになっている。これより先に馬主会や調騎会からの計1億4千万にも及ぶ資金提供の申し出もあったものの、これはいわば身内が自己犠牲の精神で拠出するものでありこの方法ではやはりいかにも無理があり限界がある。そんな中、ソフトバンクからの提案はほとんど乾田に慈雨ほどの効果となった。

 とはいえ、ばんえい競馬に限らず地方競馬は、最終的には地元の人々の判断で去就が決まる。したがって存続運動も、理想的には地元の人々による大きな流れを形作って行くのが本来の姿だ。帯広在住の公務員Sはばんえい歴30年を誇る筋金入りのファンだが、ほぼ毎週通っている彼によれば「このところ明らかに入場者の質が変化している」のだという。廃止報道が流れた直後に帯広開催が始まったこともあり、明らかに「地元の人間ではない入場者が激増している」というのだ。「毎週来ていたらだいたい顔は分かる」のだそうで、これも報道による効果なのかも知れないが、私を含めた外野にいる人間にできることは所詮援護射撃の域を出ない。実はSのような地元の人々の圧倒的な支持がまず求められるのである。

 ただ、依然として馬券売り上げは厳しい。12月10日はばんえいオークスが行なわれ、帯広になってから初めて1億円を超えた。だが11日月曜日は入場者834人(前日は1810人)売り上げも7600万円余にとどまった。土日を利用して他の土地から帯広競馬場を訪れるファンは、ほとんどがその日のうちに帰路につき、月曜日まで滞在する人は激減するようだ。それにしては入場者数が半分以下まで落ち込んでも売り上げは4分の3程度を堅守しており、いかに常連客が買い支えているかということでもあるのだが。

 最後に二点だけ追記しておきたい。一つは私の周囲にもばんえい競馬を初めて見に行ったという人が何人かいて、それらの人々が何の先入観も予備知識もない状態のまま「素の感想」を漏らしてくれているのだが、異口同音に触れるのは「施設の古さと内部の居心地の悪さ」なのである。とりわけ女性にとっては苦痛にも感じる空間だと指摘する声が多い。気候の厳しい今はとても終日外で過ごすことは無理で、レースとレースの合間はスタンド内で暖を取りたいところだが、圧倒的に年配の男性が多く、しかも喫煙率が高いため辛いのだそうである。

 もう一つは、「動物虐待」を連想してしまうこと。初めてばんえいを見た人は一様に馬の大きさや迫力に圧倒されるのと同時に、鞭でバシバシと叩かれ追われる馬がいかにも虐められているような印象を持ってしまうようだ。このイメージを払拭するのは実はかなり大変なことで、決してそうではないということをきちんと説明するべきだと痛感させられる。

 ばんえい競馬唯一の女性調教師、谷あゆみさんはこのあたりのことをネット上でも積極的に発言しているが、まだまだ一般的にこうした悪しき印象を与えているのだとしたら、早急に解決策を講じなければならないだろう。

 存続運動とともに、ばんえい競馬そのものをよく知ってもらうような宣伝、啓蒙活動もまた欠かせないのである。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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