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『ばんえい競馬存続』からの教訓

  • 2006年12月19日(火) 23時50分
 12月14日、ばんえい競馬にとっては歴史的ともいえる砂川・帯広市長の存続決定発言により、文字通り「首の皮一枚」で廃止を免れた。平地とばんえいでは競馬のスタイルがまったく異なるとはいえ、全国各地の地方競馬関係者にとってもばんえいの去就は他人事とはとても思えなかっただろう。存続か、廃止か。存続できるとしたら、どんな形での存続があり得るのか。各地で起こる廃止反対運動の状況がメディアを通じて報じられる中、馬主会や調騎会からの1億4千万円に上る寄付金の申し出があり、確実に存続への方向へ“風向き”が変わってきていた。

 そうした流れを決定的にしたのは、ソフトバンクからの支援である。ほとんど廃止へ傾斜していた空気がこの一件で正反対の方向に押し戻され、ついに存続が正式決定した。ここ数年で廃止のやむなきに至った各地の地方競馬と大きく異なる点はここにある。当面の存続を勝ち取ることに運動の主眼を置いていた関係者が多いはずだが、まずは第一関門をクリアできたことを共に喜びたい。

ばんえい競馬のレース風景

 ただ、祝賀ムードは早々に切り上げなければなるまい。手離しで喜んでばかりもいられないほど周囲の状況は厳しい。今年度は明年3月末までの開催を続行できる見通しだが、来年度のことは未だ何も決まってはいないからだ。開催日数120日、売り上げ80億円という数字を何かで見かけたものの、これとて確定したものではなく、だいいち報償費も果たしてどの程度の削減になるものか現段階では詳らかになってはいない。当初、旭川・北見撤退後の帯広と岩見沢2市開催によるシミュレーションでは「報償費40%減」案が示され、一度は厩舎関係者がこれを承諾したとも伝えられているので、新年度はこの数字が試算の根拠にされる公算が大きい。

 また前述のように、年間売り上げ予想が80億円であれば、原則として赤字を出さない計画である以上、開催経費は4分の1の20億円になる。報償費はもちろん、今後は「聖域なしの大鉈削減」を断行しなければ早晩また存廃問題が浮上する可能性が高く、予断を許さぬ厳しい状況と言わざるを得ない。これまで以上にばんえい競馬ファンの層を拡大させ、より多くの馬券売り上げを計上する必要がある。前途多難という他ないが、とにもかくにも存続を願って多くの人々が動いた結果が、今回のソフトバンク参入に繋がったのだ。これを無駄にしてはならない。

 ところで、水面下で存廃問題を抱える全国各地の地方競馬主催者にとって、今回のばんえい競馬のケースは参考になっただろうか。最終的に民間企業からの支援が帯広市長の決断を強く促す結果になったのであれば、地方自治体が運営し開催する地方競馬の限界もまたここにある。もちろん来春以降の動向を見極める必要があるとはいえ、従来のように「官」の行なってきた競馬が、すべてではないにせよ「民」に移行することで再生可能であるならば、今後に大きな道標を示すことになろう。

 その意味で、ばんえい競馬の今後は他の地方競馬にとっても「やり方次第で再起可能」なのか、「誰がどう運営しても再起不可能」なのかを検証する場となるはずだ。ばんえいのように、地方競馬で特定企業が全面的な支援を約したケースは初めてのはずで(ライブドアの場合は実際に支援までたどり着かなかった)、ここまできた以上はよもやドタキャンはないものと信じたいし、ぜひ、今後の民間参入の良きお手本を提供していただけるものと期待しよう。

 かなり茨の道だが、ばんえい撤退の決まった旭川、岩見沢、北見の3市が臍を噛むくらいの発展と成長が実現することを祈りたい。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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