12月24日の有馬記念。中山競馬場でディープインパクトのラストランをご覧になった方がたくさんいるだろう。混雑を嫌ってか、入場者は前年をかなり下回ったらしいが、それでも12万人が押し寄せたとか。圧勝でフィナーレを飾った“怪物”は、レース後休むことなく北海道へと旅立ったと聞く。種牡馬入りした後も折々に話題の中心となるだろう。初種付け、展示会、初産駒誕生などとディープ神話はこれからしばらく続きそうである。
さて、当コラムもいよいよ本年最後の回を迎えた。11月末以来、ほとんどばんえい競馬のことばかり書いてきたので、生産地コラムとは言いがたい内容になってしまったことをここで改めてお詫びしておきたい。
しかし、異種競技ながらも、同じ北海道内での地方競馬存廃問題とあって、成り行きがずっと気になっていたし、それは現在もまったく変わっていない。ソフトバンク参入で一件落着したわけでは決してなく、むしろ大変なのはこれからだ、という関係者がほとんどである。来春以降に向けていったいどんなばんえい振興策を考えられるかにかかっている。
有馬記念で盛り上がっているのとちょうど同じ頃、帯広では3歳チャンピオンを決める「第35回ばんえいダービー」が行なわれた。出走頭数10頭。発走は午後4時10分。冬至の今の季節、この時間帯になるとかなり暗い。走路は照明がなければまともに観戦できないほどの光量で、日が落ちると寒さも一層厳しくなる。
レースは終始先手を取った8番ナカゼンスピードがそのまま押し切り見事優勝した。2着には9番ニシキユウが入り、こちらは人気薄だったため、馬連、馬単ともに万馬券の決着となった。ナカゼンスピードに騎乗した藤本匠騎手は、このレースでちょうど2500勝を達成。ばんえい史上3人目の大記録を記念すべきダービーで成し遂げた。
ところでこの日、クリスマスイブに合わせた企画の一つに「チャレンジばんえい」があった。これは従来ファンが騎手とともに橇に乗り模擬レースを体験するというものだったらしいが、今年は騎手たちがサンタクロースに扮し、橇に同乗するのは一般から応募のあった子供たち。ちょうど傍から見ているとトナカイが曳く橇に本物のサンタクロースが子供連れで乗っているようにも見えてほほえましい光景だった。
関係者によればこの騎手サンタ作戦は急遽(前日?)決定した由で、そのために事前の告知が徹底できなかったのがやや悔やまれる点だが、企画としては秀逸で、こんなことが可能なのはそれこそ日本広しと言えどもばんえい競馬を措いて他にはない。クリスマス当日に本物の橇に乗ることのできた子供など他に何人いるだろうか?
こうした「すぐにでもできる」こと、「あまり資金をかけずにできる」ことを矢継ぎ早に実行し、いかに多くの人々を競馬場に呼び込むことができるかがばんえいに限らず地方競馬共通の課題であろう。
ばんえいはソフトバンク参入表明により、帯広市長の存続決断を大きく促す結果となった。99%廃止へと傾斜していた9回裏に奇跡の大逆転が起こったようなものだとよく喩えられるが、民間企業との共同運営という「新たな形」をどのように作り上げて行くか、まだまだ解決すべき点は多い。注目度という意味で言えば、ちょうどハルウララの存在が脚光を浴びていたさなかの高知競馬を彷彿させる。存廃問題が浮上し、様々なところから存続を求める声が巻き起こったことから俄然日本中の注目を集めるに至った過程は高知そっくりである。ソフトバンク参入、存続決定のニュースが流れたのはちょうど注目度がピークに達した時期と重なり、まさしく絶好のタイミングでソフトバンクは支援表明をしたわけで、少なくとも現在まではその“余熱”によって明るいムードが続いている。
今がチャンスである。「新しく生まれ変わるばんえい競馬」をどのようにアピールできるか。ブームというものがあっという間に去って行くことを私たちはこれまで何度も見せられてきた。多くの人々の視線がまだ北に向いている今こそ動き始めなければならない。