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暖冬異変の影響は?

  • 2007年01月23日(火) 23時50分
 例年、この1月下旬から2月中旬あたりまでがもっとも厳寒期のはずだが、今年はいったいどうしたものか、日高はまるで雪のないままである。積雪は現在でも平地の日当たりの良い場所ではほとんどゼロ。日陰でもわずか2〜3cm程度だ。

新ひだか町にて、積雪ゼロの風景

 積雪の風景を見ようと思ったら、海岸線からかなり奥に入らなければならない。年が明けて1月7日未明に風速48mの暴風雨となった他は、ほとんど連日晴天が続いている。その後一度だけ数センチ程度の降雪を観測したものの、気温が例年に比べて高めのため、何日もしない間に融けて消えた。

 かくして、まったく晩秋か早春のような風景のまま、一向に冬らしくならない。除雪の苦労がなくて良い、だの、暖かいので暖房費が節約できる、などという人々が多いのだが、牧場関係者にとってはそうそう喜ばしいことばかりではない。というよりも、雪があまりにも少ないために、様々な「不都合」が生じてきている。

 まず、馬にとって積雪ゼロは果たして良いことか、というと、これはむしろマイナス材料だ。欲を言うならば、20cmから30cm程度は欲しい。放牧地一面が真っ白になって、1歳馬などが膝近くまである雪の中を漕ぐようにして走り回れるくらいが理想的なのである。膝までは望めなくとも、せめて球節が隠れる程度は最低限、積もっていて欲しい。

 ところが、今年はまったく草地がむき出しのままだ。馬たちは思い思いの場所で枯れた牧草の間のわずかに残った食べられそうな部分を摘んだりしているが、それと同時に土も一緒に嚥下してしまうため、しばしばそれが疝痛の原因になったりする。

 さらに、積雪ゼロのまま気温が氷点下まで下がることで、表土が凍結してしまう。日中、気温がプラスになれば表土がいくぶん融けて少しだけ軟らかくなるが、馬の蹄によってデコボコになった表土が夕方から朝までの間にまたガチガチに凍結する。その繰り返しである。

放牧地で1歳馬たちも運動不足

 凍結した硬い地面は、蹄鉄を打っていない1歳馬にとっては何とも運動に具合の悪い場所となる。クッションがまるでないため、全力疾走もままならない状態が昨年の秋より続いているわけである。今年はとりわけ、蹄や関節などを痛める馬が多いという。無理に走り回ると、途端に蹄が欠けたり、ねんざや打撲などの炎症を起こす。それが分かっているので、「動きたくとも思い切って動けない」というストレスが重なるのだ。

 これを解消するには、もちろん一度に大量の降雪があれば理想的だが、今年の場合はそれもやや期待薄のようだ。そうなると、後は人工的に作られた「クッションの良い屋内コース」などで追い運動でもするより方法がない。しかし、そんな施設を所有している牧場はまずほとんどないため、ここしばらくの間は、圧倒的な運動不足状態が続くことになるだろう。

 また、積雪のないまま春を迎えた放牧地は、冬の間、表土を馬の放牧により痛みつけられているため、新芽の成長が遅れることを懸念する生産者が多い。除雪費予算が底をつくほどにも降ってしまうのは歓迎できないが、まったくないのもまた具合が悪いものなのだ。

 余談だが、日高では各地の小学校がPTAの協力を得て毎年校庭にスケートリンクを作る(学校の授業にスケートの時間があるくらいだ)。ところが今年は雪不足のために、スケートリンクを作れない学校がほとんどという。そう言えば、毎年恒例の冬の行事として定着していた「地吹雪体験ツアー」(青森県津軽地方)が今年、節目の20周年を迎えたにもかかわらず、暖冬のせいで中止のやむなきに至ったとも聞いた。どうも気候が少しずつおかしくなってきていることを実感させられる。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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