スマートフォン版へ

ばんえい競馬シンポジウム

  • 2007年02月06日(火) 23時49分
 去る1月30日(火)、帯広市の「とかちプラザ」にて「“ばんえい競馬”の未来を考えるシンポジウム」が開催された。主催は、帯広市と日本馬事協会。北海道や地方競馬全国協会などの多くの関連団体が後援し、地元の新聞社や観光連盟などが協賛する大々的なものだ。

 とかちプラザはJR帯広駅前に位置し、350人収容の小ホールが会場として用意された。開始は午後1時半。全体は二部構成になっており、第一部は三人の講師による講演、そして第二部がパネルディスカッションである。

ばんえい競馬シンポジウム

 第一部に登場したのは、家畜改良センター十勝牧場改良技術専門役・岡明夫氏。そして帯広畜産大学教授で、ばん馬を愛する十勝の会代表でもある柏村文郎氏。三番目にソフトバンクプレイヤーズ社長・藤井宏明氏。岡氏はまず「わが国の馬産とばんえい競馬」と題して、日本における馬の生産の概要や農用馬(ばん馬はこのカテゴリーに入る)の生産の現状、馬と人との関わりなどについて語った。

 次に登場した柏村氏は「世界の馬文化とばんえい競馬」と題して海外の多様な馬文化を紹介しながら、日本独自の「日本輓系種」は、我が国で品種改良されながら、世界最大の体格と最強の牽引力を持つに至り、日々ばんえい競馬でレースに出ていることを分かりやすく解説した。

 講演の最後は藤井宏明氏。藤井氏は「全員参加型で進めるばんえい競馬」というタイトルを掲げ、ソフトバンクプレイヤーズ社(以下SBP社と略)がばんえい支援に至った経過などについて説明し、今後の展開について「ファンや北海道民、帯広市、十勝管内の観光レジャー産業、競馬関係者など、みんなで作るばんえい競馬」が基本理念であると強調した。

 講演終了後、休憩時間を挟んで第二部はパネルディスカッションとなった。藤井氏と柏村氏の他、「ハロン」編集長・斉藤修氏、競馬評論家・須田鷹雄氏、帯広市長・砂川敏文氏、「北海道じゃらん」編集長・ヒロ中田氏、エッセイストの旋丸巴氏が壇上に並び、真ん中に司会の矢野吉彦氏(アナウンサー)が着席。さっそく「ファンと築くばんえい競馬の将来」というタイトルでスタートした。

 矢野氏はまず「今後の新生ばんえい競馬はあくまで全員参加型である」ことを強調し、「SBP社が何でもやってくれるものでは決してない」と断った上で、各人に今後のばんえい競馬のために3つずつの提言を求めた。

 全体では重複する部分もあり、加えてかなりのボリュームになるため、一人ひとりの発言を詳述するのは控え、いくつか心に残ったものだけを紹介するに止める。まずヒロ・中田氏の提言した「帯広競馬場の一角を2“道の駅”化してはどうか」というアイデア。これはもちろん予算や認可などの面倒な手続きがあって一朝一夕に実現する話ではないが、少なくとも方向性としては今後に明るい展望を感じされるプランである。さっそくこの中田発言を受けて砂川・帯広市長が「検討に値する発想だ」と同調した。

 次に須田氏の帯広競馬場に対する印象として、「はっきり言って現状のままでは新規のファンを呼び込むにはかなり難しいと率直に感じた」という意見。氏は今回の帯広入りで初めて競馬場を訪れたとのことで、その分、「見たまま感じたまま」をストレートに発言していた。実はこうした“第一印象”が今後を考える上で貴重な意見になるのである。

 旋丸氏は女性の立場から「競馬場内の分煙化」や「お金をかけずにすぐできるサービスとして接客態度の見直しをまず求めたい」と発言。また「競馬場の認知度が地元で低すぎる」点についても言及した。地元でのばんえい競馬認知度や利用度が意外なほど低い点については、斉藤氏も「雪に願うこと」が帯広市で先行上映された際の経験談として同様の発言をしていた。

 何人もが触れていたのは、競馬場の複合施設化というプラン。これからは競馬を開催し来場者に馬券を買ってもらうだけではなく、女性や子供、さらに競馬に関心のない人々をも取り込めるようなショッピングゾーンやレストランなどとの共存を目指すべき、という点だ。

 各人の発言内容から、概ね「新生ばんえい競馬」のあるべき姿が方向性としては少し見えてきたように思うし、この点については評価したい。ただ、ホールを埋めた約300人の入場者は、背広組(すなわち市役所関係者など)や厩舎関係者(非開催日なので参加できた)、そして何台ものテレビカメラとともに両サイドに陣取ったマスコミ関係者などの姿ばかりが目につき、平日の午後という時間帯に会場入りできた「一般ファン」は果たしてどのくらいいたのだろうという気はする。「全員参加型」「ファンと築くばんえい競馬」とは言いながら、せっかくシンポジウムを企画するのであれば競馬開催日のいずれかで夜間にできなかったものか、と個人的には感じる。

 それともう一つ、会場には多くの厩舎関係者が詰め掛けており、議論の流れを注視していた。今春以降の存続と引き換えに報償費の削減(4割カット?)が目前に迫っている現在、果たして競馬に必要な馬の数を確保できるものか、あるいは自分たちの生活にどの程度の影響が出るものか、おそらく気が気ではない状況だろう。会場とパネリストとの質疑応答の時間があっても良かったのではないか。

 「こうした機会を今後も継続したい」とSBP社・藤井社長は地元紙「十勝毎日新聞」の取材に応じてこう発言している。良きにつけ悪しきにつけ、ばんえい競馬が人々の関心事である間に、矢継ぎ早の改革を推進して行かねばならない。何より怖いのは地元の人々の無関心、黙殺だと私は思う。手厳しい意見も「良薬口に苦し」で貴重なものと受け止めて欲しいし、最も救いようのないのは「興味も関心も何もない。どうなっても構わない」という白けたムードが蔓延してしまうことなのだ。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

バックナンバー

新着コラム

アクセスランキング

注目数ランキング