スマートフォン版へ

首の皮一枚での存続=岩手競馬

  • 2007年03月20日(火) 23時46分
 19日(月)深夜、岩手県議会(臨時)に上程された競馬組合への修正融資案(277億5千万円)が22対21の僅差で可決され、4月以降の岩手競馬の存続が取り敢えず決定した。

 他県の県議会中継など見ることはなかったのだが、さすがに15日から19日にかけての岩手競馬を巡る様々な動きに対しては無関心ではいられず、出来る限りの情報収集に努め、ネットでの県議会中継にも注視していた。おそらくこういう地方競馬ファンは全国的にかなりの数に上ったことだろう。岩手県議会の中継にアクセスするのがとても難しく、ひょっとしたらこれまでで最も「視聴率」が高かったのではなかろうか。

 すでに周知のことと思うが、去る3月15日の岩手県議会に岩手県競馬組合への融資案(全体で330億円、そのうち県より297億円)が上程され、活発な議論の末に、この融資案が否決されるという出来事があった。

 競馬関係者のみならず、岩手競馬ファンも、そして私たちのような外部の人間にとっても、この結果はかなり予想外のものだった。廃止となれば372億円とも言われる予算が必要になり、関係者は職を失うとともに、県の経済もまた冷え込む。よもや簡単に廃止するなどという選択はあり得まい、と高をくくる人が多かったのではないか。

 それが蓋を開けてみると、22対22の同数という結果になり、議長判断で融資案が否決。それを受けて増田・岩手県知事は日付の変わった頃に記者会見を開き「融資案が否決された以上、3月一杯で競馬事業を打ち切るしかない」旨、正式に表明し、岩手競馬はほとんど廃止一色ムードに変わってしまった。

 17日(土)には競馬議会が開催され、ここで正式に廃止のための議案を審議する予定になっていたが、構成団体の盛岡・奥州両市長より、組合に対する融資の上乗せ案(各10億円、両市合わせて計20億円)が提案されるに及んで、また議論は振り出しに戻された形となった。県からの融資額297億円が、これにより20億円減額され、277億円となること、そして競馬を潰すことによる影響が現時点ではあまりにも大き過ぎることなどの点が考慮され、19日の臨時県議会に修正融資案が再提案されることになったというわけだ。

 水面下ではかなり慌しい動きがあったとも聞く。存続派と廃止派の攻防は、ギリギリまでもつれ、前述のように首の皮一枚で融資案が可決、新年度の岩手競馬が予定通りスタートできることとなった。

 もちろんこの結果は同慶の至りというしかないが、それにしても、なんという紆余曲折だったものか。県民の多くは「融資案には反対、しかし、廃止にともなう出費にも反対」という矛盾した考え方でいるとも聞く。増田知事は「330億円の組合に対する融資案は、県民の負担を最小限に抑えるためのやむを得ない融資である」として各議員に理解を求めた。廃止するとなると372億円の資金が必要になり、県民の負担はさらに重いものになる、ということなのである。

 「地方競馬の優等生」という強いイメージが多くの県民にも残像のように残っていたはずで、にもかかわらず、よくよく報道などを見ていると、こんなにも経営内容が悪化していたのか、と絶句してしまうほどの展開だったことだろう。赤字に転落し始めたのは今世紀に入ってからのことで、新盛岡競馬場オープン(1996年)からわずか10年ほどでここまで厳しくなっていたとは、と驚いている県民が多いはずだ。

 これまで岩手競馬は県と盛岡、水沢両市に計407億円もの財政寄与をしてきたという。だが、新盛岡競馬場は当初予算236億円で建設するはずが、その後いかなる理由よるものか膨らむだけ膨らんで最終的に405億円もの巨費を投入し完成した。何のことはない、それまでの益金がそっくり新競馬場に化けただけのことである。

 正念場はこれからだ。増田知事は「赤字即廃止」とすでに退路を断つ決意を表明している。本気で岩手競馬存続を考えているのならば、競馬組合解散(別の組織を作る)、関連会社との契約をすべて白紙に戻し、従事員の賃金も、報償費も、業務委託費も、例外なく見直す必要がある。見栄も外聞もかなぐり捨てて、この際、交流重賞競走もすべて返上するくらいの覚悟がなければ事態は好転しまい。笠松競馬は、乾いた雑巾をもう一度力任せに絞るようにして経費を削減し現在も続いている。ばんえいも今春からは報償費が4割も削られての再スタートである。残念ながら、そのくらいまで徹底しなければ、いずれまた近いうちに同じ問題が浮上し、その時こそ待ったなしで廃止へ舵を強引に切られるだろう。「地方競馬の優等生」などともてはやされた時代の記憶は、もう忘れなければならない。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

バックナンバー

新着コラム

アクセスランキング

注目数ランキング