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セレクトセールとセレクションセール

  • 2007年04月24日(火) 23時50分
 4月16日に1歳が、そして25日に当歳がそれぞれ申し込み締切日に設定されている「セレクトセール」(主催・日本競走馬協会)。今年もまた当歳が2日間で約300頭、1歳が1日で約150頭の上場予定だそうである。

 また「セレクションセール」(主催・HBA日高軽種馬農協)の方は、当歳が5月18日(追加申し込みは19日より25日まで。ただし申し込み料は5割増し)、1歳が4月13日(追加申し込みは14日より20日まで受付。割り増しは当歳と同様)が締め切りである。

 名前のよく似ている二つのセールだが、主催も開催場所も、さらに言えば上場される馬の価格もかなりの違いがある。そして、生産者はこの二つのセールのどちらを選択するか、で毎年悩まされるのだ。

 もちろん、“選ばれた馬たち”の市場である。当然のことながら、売れる可能性の高い血統的背景を持ち、且つ本馬もそれなりの馬体を備えていることがまず求められる。「この馬を高く売りたい」と考える生産者にとって次の関門は、どちらのセールがより合格率が高いか、ということだ。

 上場に漕ぎ着けるためにはまず、選ばれなければならない。しかし、それぞれの主催者は「重複申し込み」を固く禁じており、そこが生産者にとってはかなり厄介な規定になる。売却率や平均価格ではセレクトセールの方が遥かに上を行くため、とりわけ日高の生産者の本音としては「できることならセレクトセールに出したい」と考える。しかし、自信作をこちらに上場したい生産者が多いので、その分競争率は高くなりがちで、その結果、選考委員会(5月17日に開催予定)で振り落とされる可能性がある。

 しかし、セレクトセールの選考で落とされた馬がセレクションに上場申し込みできるのは、追加受け付けの期日が間に合う当歳だけである。セレクションセールの場合、1歳に関しては、前述のように4月20日で申し込みを締め切っているため、セレクトセールの選考に漏れた馬は、もうサマーセール以降に上場申し込みするしかないのである。

 この重複申し込みを禁ずる規定については、過去にも数々の議論がなされてきた。主催者としては良質馬を確保したいのは基本的にどちらも同じである。そして、生産者も、上場できるのならどちらの市場でもいいのだが、本音の部分では、セレクトセールに落選しても、セレクションセールにはせめて上場させたい、というところなのではあるまいか。

 しかし、繰り返しになるがセレクトとセレクションの重複申し込みは禁止されている。それぞれ「二股は許さぬ」ということなのである。だが、「第一志望・セレクトセール、第二志望・セレクションセール」と考える生産者は少なくなく、今年も上場馬の選考結果を巡って一騒動あるかも知れない。

 さて、以上のようなことから、昨年までは実際のところ同一馬を「重複申し込み」する生産者が確かに存在したのも事実だが、果たして今年はどうだろうか。私の周辺では「今年はセレクトセールを止めてセレクションセールに申し込んだ」という声がどうも多いように感じる。

 その理由は大きく分けると次の二点である。一つは、昨年のセレクトセールにおける非社台グループからの上場馬が意外に苦戦を強いられたこと。売却率、平均価格のいずれもかなり大きく水を開けられたことがまず挙げられる。

 そしてもう一つが、セレクトセールにおける拘束日数の増加である。申し込みの案内文書によれば、1歳馬の場合、せり当日の比較展示がなくなり、それに代わって前日と前々日の二日間が「下見期間」として設定されている。つまり7月9日(月)の1歳市場当日を含め、三日間現地に滞在する必要が出てくるのである。

 もちろん、すべての上場馬が前々日から会場入りしなければならない、とは規定されていないが、遅くとも市場の前日朝9時までには入厩しているように、と明記されている。「より多くの購買者の目に止まるように」と考えれば、やはりこの下見期間はずっと会場内の厩舎でスタンバイしているのが望ましく、かくして、三日間の拘束が待っていることになるのである。

 多くの従業員を抱える大牧場ならばいざ知らず、家族労働に毛の生えた程度の小規模牧場にとってこの間一家の主たる働き手が最長三日間も不在になるのは痛い。またコンサイナーに生産馬を預けるにしても、その肝心のコンサイナーとて、翌週にセレクションセールを控えていることを考えると、スタッフを分けて現地に派遣する余裕を持てるかどうかやや疑わしいところなのだ。

 物理的にも、日高の小規模生産者にとってセレクトセールは徐々に敷居が高いものになってきているように思えてならない。その分だけ、1歳馬に関しては、例年よりも静内で開催されるセレクションセールの競争率が上昇することも考えられる。いずれにせよ、根底にあるのは「生産馬をいかにより高く売るか」ということなのだが…。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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