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新馬戦からダービーまで

  • 2007年05月29日(火) 20時30分
 いきなり私事で恐縮だが、今年初めて「POG」関連の仕事が舞い込んできた。依頼主は厳密に言うと2社あり、とりわけ最初に声をかけて下さった出版社は、私にとってはかなり大口の契約になりそうな内容だった。POG業界に初めて参入しようというこのA社は、巻頭を飾るカラー頁の立ち写真300頭をすべて私に撮影して欲しいと切り出したのだ。

 さ、さんびゃく…と驚いたのは言うまでもない。ただし、そこにはからくりがあって、4月中旬に北海道で実施される「産地馬体検査」(4日間連続で行なわれ計700頭前後の2歳馬が登場する)に立会い、その場でめぼしい血統の馬をチェックしては片っ端から撮影する、という流れなのだ。先方は「300頭のうち社台グループで半数程度は収録したい」とのことで、浦河と静内が各1日、そして早来(現・安平町)で2日間実施される産地馬体検査は皆勤しなければならない、と密かに覚悟を決めた。だが、その後、件の出版社は「準備不足」を理由に今春のPOG本発刊を断念した由で、最初の依頼から約10日後に私のところへも断りの連絡が入った。

 「やっぱり、いくら何でも時間が足りなかったわけだな」と思い直してみたものの、正直かなり落胆したのも事実だ。仕事としてはデカイ話だった分、ショックもまた大きかったのである。

 しかし、棄てる神あれば拾う神あり。それからほどなくもう1社からPOG関連の仕事が舞い込んだ。

 それが「POGの達人」(通称・赤本)である。それで今年初めて産地馬体検査での取材風景を見学してみた。4月10日のこと。噂には聞いていたが、浦河のBTC診療所前には、多くの取材陣が押し寄せており、1頭ずつ検査が終わるのを待ち構えては次々に立ち姿を撮影している。

 だが、現場を仕切る係が不在のため、立ち写真とはいえ、てんでに思いのままあらゆる角度から撮っている。

産地馬体検査1

 産地馬体検査の写真がどれもまともな格好をしていないのはここに原因がある。どのカメラマンもここではおそらく誰一人として満足できる写真を撮れていなかっただろう。総じて被写体に近づき過ぎるために、こういう無秩序な状態になってしまうのだ。

産地馬体検査2

 まあ、これは来年以降の課題としてPOG関連本の関係者に投げかけておく。それより、このPOGなるゲームの愛好者が実際にはかなりの数に上るらしいことを恥ずかしながら今年になって初めて知った。いちいち例を上げないが、「赤本」の他にも多くの関連本が発刊されており、のみならず今はこぞって雑誌でもこの時期になるとPOG特集を組んでいる。つまりそれだけの読者層が存在するわけで、これは総じて苦戦する競馬関連本の中にあって、数少ない「計算できる刊行物」になっているのかも知れない。

 さて、先週、日本ダービーが終わった。POGのことをくどくどと書いたのは、このゲームが基本的に新馬戦の始まる6月からスタートし、翌年のダービーまでの“指名馬”の獲得賞金を競うルールになっていると聞いたからである。

 今年デビューする2歳馬を選ぶのはダービー終了後のことだという。つまりちょうどそれが今らしいのだ。

 昨今の競馬の世界では周知のごとく社台グループの「1人勝ち」状態が続いており、指名馬もそれに伴って社台グループ生産馬に集中しがちらしい。当然のことだろうとは思うが、相対的に安い(もっと言えば評価が低く、人気がない)日高の生産馬でも、中には「大化け」したローレルゲレイロやサンツェッペリンなどのような馬がいる。牝馬ながらダービーを64年ぶりに制したウオッカなども昨年の指名の段階でどれくらいの注目度だったものか、と思う。

 その意味で、赤本の監修者でもある須田鷹雄氏の「問題提起」は興味深いものがある。須田氏は「あとがき」でこう言っている。「そろそろハンデ戦のようなルールが必要かなと思うのです。(中略)POGも人気馬の当たりはずれをくじ引きし合うゲームではなく、うまい、と唸るような指名が生きる世界にしたいものです」と。

 ライターの村本浩平氏はこの赤本所収の「座談会」にて「今のPOGファンにはそういう穴狙いというか、安くて走る馬を探そうという方法論がウケないんですよね。ただ単にノーザンファームの馬でくじ引きやって当たりを引いた者が勝ちになっている」と現状を憂う。この発言の後に須田氏が「馬の価格・コストが反映されないというのは現状(の)POGが持っている限界ですね」と続けている。

 良血馬が期待通りの競走成績を収めるのがもちろん競馬の基本である。だが、時々「あっと驚く激走」を見せる伏兵がいるのもまた競馬の醍醐味だ。単なる籤運だけで、POGの優劣がついてしまうようなゲームではどこか味気ないではないか。その「伏兵」が実は日高に多く眠っている…と書いてしまうとあまりにも「我田引水」だろうか。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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