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レベルアップする上場馬

  • 2007年06月05日(火) 23時49分
 2歳馬のトレーニングセールがたけなわの5月。生産牧場から市場に上場させる予定の1歳馬が馬運車で移動し始める。早い馬はまだ寒い3月あたりから、そして一般的には市場の2か月前より、コンサイナーの元に預けられる。7月初旬から始まる市場に間に合わせるべく、概ね5月連休の頃より移動が始まり、それぞれ「行儀見習い」が躾けられるのだ。

馬を立たせる練習1

 7月2日に「八戸市場」、そして次週にはセレクトセール、その一週間後にはセレクションセールと、市場日程が立て込んでおり、これからサマーセール(8月下旬)が終わるまで、コンサイナーは一年中で最も多忙な季節を迎える。

 先日、所用があり、新ひだか町の「エバグリーンセールスコンサインメント」を訪れた。旧・静内町の市街地を見下ろす真歌の丘の上にあるこの牧場は、日高におけるコンサイナー業の草分けである。場主の藤澤澄雄氏(現・北海道議会議員)が単身イギリスに渡り、ノウハウを学んで帰国。2001年より本格的にコンサイナー業を開始した。

 折から日高の中小牧場では、慢性的な人手不足と後継者不足が続いており、「セリに出したくても馬を仕上げられない」という悩みを抱える生産者が少なくなかった。市場に生産馬を上場させるには、かなりの負担となるにもかかわらず、20代から30代の人材が徐々に減少してきており、「隣の若い衆」を頼むにしてもそんな都合の良い相手はどの地区にも払底してきていた。

 そうした中、登場したのがコンサイナー業である。1歳馬を馴致し、市場上場にかかわるすべての作業を「代行」してくれるこの商売は時代の要請もあって見事に当たった。以来、今年で7年が経過するが、日高全域にこの業種は拡大し、今ではかなりの「過当競争」にもなっている。

 エバグリーンでは、現在、7月のセレクトセールとセレクションセールに向けて、22頭の1歳馬を預かる。前者が8頭、後者が14頭という構成である。

 もちろん、コンサイナーに1歳馬を預けるには「お金がかかる」ので、いきおい牧場の期待馬ばかりがリストアップされることとなる。なるべく高価で売買できそうな素材を預け、より完璧な状態にまで仕上げてもらうのが狙いである。エバグリーン22頭のラインナップは、種牡馬欄だけ見るならば、「かなりの粒揃い」と言えよう。アグネスタキオン、フォーティナイナー、キングカメハメハ、スペシャルウィーク、マンハッタンカフェ、シンボリクリスエスなどといった名前がずらりと並ぶ。しかも、22頭のうち15頭が牡馬だ。

馬を立たせる練習2

 実はこうした傾向(社台系の種牡馬を中心としたハイレベルなラインナップ)は、他のコンサイナーでも顕著になっており、つまりはそれだけ牧場期待の生産馬が当歳時に庭先で売れにくくなっていることと無関係ではなかろう。良質馬は市場で販売する方が有利…というのが従来からある一般的な考え方だが、生産者の心理としては、庭先で販売できるものならば本当はそうしたいのが人情なのだ。売れるか売れぬか、上場して見なければ分からないのが市場であり、庭先販売ならば、とりあえずその気苦労からは解放されるのだから。しかし、その庭先販売が今ではかなり減ってきていることが結果的に市場へ良質馬が大量に出てくることに繋がっている。

 社台系種牡馬を配合してさえ、売りあぐねる時代。まして、日高の大多数を占めるリーズナブルな価格の種牡馬の産駒は、今後いっそうの苦戦が予想されるだろう。…こう書くと、何やらお先真っ暗な話になるが、一方の「買い手」にとっては、とりわけ日高の市場ほど「求めやすい」場所はないと断言できる。確かに「玉石混交」であることは否定できないものの、多くの石の中に間違いなく「光る素材」が転がっているのが日高の市場だ。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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