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続・レベルアップする上場馬

  • 2007年06月12日(火) 23時49分
 前回に引き続き、7月に開催予定の1歳馬セールについて書こうと思う。

 すでにウェブ上では八戸、セレクトセール、セレクションセールの上場予定馬が明らかにされている。八戸はさておき、セレクトとセレクションは、予想通りかなりハイレベルな血統馬が揃った印象だ。母系や本馬自身の体型によってもかなり価格は異なるだろうが、種牡馬のラインナップだけは錚々たる顔ぶれと言える。

 このうち1歳馬については、セレクトセールよりもセレクションセールの方がはるかに競争率が高かったという。セレクトセールにおける非社台系の上場馬が昨年かなり苦戦した結果によるものか、仄聞するところによればわずかの例外を除いてセレクトでは申し込み馬のほとんどが“合格”したという。それに比べて、日高で開催されるセレクションセールの方はかなりの狭き門だったようだ。合格率は約40%。550頭もの申し込みに対して合格馬は220頭。こうなると、まず売れるかどうかよりも先に、上場できるかどうかがかなり重要な分かれ道となる。

 以上のことから、社台グループは別格として、非社台系の上場馬は、こと1歳馬に関してはセレクトよりもセレクションの方により良質馬が多く上場されると考えて間違いなかろう。

 その(主として日高の生産馬)セレクションセールに上場予定の1歳馬も、主流を占めるのは社台スタリオン繋養の種牡馬産駒たちだ。アグネスタキオン5頭、アグネスワールド2頭、キングカメハメハ7頭(すべて牡)、グラスワンダー3頭、クロフネ9頭、ゴールドアリュール8頭、サクラバクシンオー3頭、ジャングルポケット3頭、シンボリクリスエス8頭、スウェプトオーヴァーボード4頭、スペシャルウィーク10頭、タニノギムレット4頭、ダンスインザダーク8頭、トウカイテイオー1頭、ナリタトップロード3頭、ネオユニヴァース6頭、フジキセキ4頭、フレンチデピュティ3頭、ホワイトマズル3頭、マンハッタンカフェ12頭。ざっとこんなところか。数えてみるとほぼ上場馬の半数を占める。

 一方、日高で繋養される種牡馬の産駒ではタイキシャトルとコロナドズクエストの各12頭が断然多く、それ以外はボストンハーバーとマーベラスサンデーの各6頭が目立つ程度。ここでも社台系の優勢は動かしがたいのだが、問題は、果たしてどのくらい売れるか、ということに尽きる。

 損益分岐点は1頭ずつ微妙に違っているので分析が難しい。とはいえかなり大雑把に言うと、期待の牡馬ならば、生産原価の三倍くらいには売れなければ生産牧場は成り立たない。なぜそうなるか?

 例えば繁殖牝馬10頭の生産牧場をイメージしていただきたい。10頭の繁殖牝馬から毎年産まれる産駒は7〜8頭。牡と牝はほぼ半数ずつ誕生するので、各3〜4頭である。誕生後、離乳を経て1歳馬になるまでに「まともには売り物にならない生産馬」も当然出てくる。従って、7〜8頭いても、販売できる1歳馬は6頭〜7頭と考えなければならない。

 現状では牝馬が苦戦を強いられることは避けられず、中には種付け料を回収できないようなケースも続出している。まして生産原価を確保できる牝馬は珍しいと言わねばならない。つまりは、残った牡馬3頭(もしくは4頭)で10頭分の収益を上げる必要が出てくるのである。

 現実問題として、中には「仔分け」や「預託」などという契約による繁殖牝馬も繋養されているので生産牧場の経営内容は様々なのだが、自己繁殖牝馬主体の生産牧場を想定するとざっとこんな感じになるだろう。

 セレクトやセレクションに登場してくる1歳馬たちは、こんな背景を持ったそれぞれの牧場のエース格と考えていい。「この馬で勝負を賭ける」という気合の入った上場馬たちなのだ。黙っていても購買者が続々と牧場にやってきて片っ端から庭先で当歳馬が売れた時代はもう過ぎ去り、その結果、市場の重要性がますます増すことになった。それぞれの期待と不安が交錯する7月。果たして今年はいかなる結果が出るものか。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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