今年から2400mになったトライアル。有力候補の大半が出走していたから、この結果は本番菊花賞と密接に結びつくこと必至だが、菊花賞が10月になった2000年以降、トライアルと本番をともに連対したのはディープインパクトと、昨年のドリームパスポートの2頭だけ。秋に一戦だけしてすぐに3000mの菊花賞というローテーションだからこそ、実は体調の変化が非常に大きいという要素も隠されている。一応、秋の勢力図が見えてきたものの、今年もまた3000mの菊花賞と、ここまでの中距離の力関係は大きく異なる危険があることを忘れないで菊花賞に結びつけたい。
もっと流れは落ち着くかと思えたが、伏兵のゴールドキリシマが飛ばし前半1000m通過58.8秒。半分の1200mは1分11秒3。だから後半は1分13秒4。レース全体としてはハイペースだが、離れた2番手でマイペースを守った形のホクトスルタンの1200m通過は推定1分12秒3〜4。そして勝ち時計は2分24秒7なので、上位を占めたグループにはレースの流れ(展開)がもたらした有利不利はほとんどなかったろう。事実、4コ―ナーを回って楽な手ごたえで先頭に並びかけたアサクサキングスは、コースこそ違うがスローのダービーを逃げて粘ったときとほとんど同じ2分24秒8で乗り切り、上がり時計にもそう大きな差はない。
アサクサキングスは帰厩の日程が移動禁止で遅れ、決して万全の状態とは思えない直前の動きだった。だから、ダービー最先着馬は同じ距離なのに離れた5番人気。しかし、実戦駆けのアサクサキングスはダービーで見せたのとほぼ同じような2400mでの能力を今回も発揮して見せた。と考えるなら、力関係を考えるのはたやすくなるが、まあそれは短絡として、能力の目安になるのはダービー2着のアサクサキングス。あらためてそういう勢力図がみえてきたとはいえる。
勝ったドリームジャーニーは、1600mにしては平均ペースで流れた朝日杯と同様にもっとも爆発力の生きる流れだったろう。追走に余計なスタミナをロスする2400mではなかった。前半はためて切れ味フル回転。武豊騎手のもっとも得意とする形の一つで、父は自分が乗って完成させたステイゴールド。さらには母の父までその真価を知り尽くしているメジロマックイーン。最初は軽いレース向きと思えたが、タフな成長力をいよいよ発揮し始めてきたと考えたい。馬体重は変わらなかったが、ステイゴールドが同じ。体重が増えると走らず、快走はそぎ落としたときだけだった。
ヴィクトリーは、前半は少し行きたがったがなだめて折り合い、粘っただけでなくゴール寸前は伸びていた。荒々しさがなくなった点を心配する声もあるが、精神面で大きな課題をかかえていたこの馬とすれば満点のステップレースだろう。半兄のリンカーンは神戸新聞杯で4着。菊花賞は2着。同じような好走が期待できるところまできた。
4着ホクトスルタン(父メジロマックイ―ン)は、今回は完敗とはいえ、もう春のモロさはなくなっている。賞金順位から出走ボーダーラインになりそうだが、3000mの菊花賞なら今回よりさらに……の予感がある。ぜひ、出走を実現させたい伏兵だ。
フサイチホウオーは、いったいどうしてしまったのだろう。このトニービンに溯る父系の特質は、実は、育て方、鍛え方、レースに出走させ方しだいでは、必ずしも奥手でも晩成ではなく、ジャングルポケットやウイニングチケットのように早い時期に完成されることも珍しくないといわれる。渾身の仕上げのダービーが精神面の限界にまで達してしまったかのような残念な結果に終わり、必死の巻き返しをはかった今回が、とても春のフサイチホウオーとは信じられない凡走。楽な手ごたえできながら、直線、バテてもいないのにストライドが急にバラバラになってしまった。
余裕残しの体つきとか、お相撲さんを思わせるような迫力を前面に出した体つきとか、そういうことではなく、完全に心身のリズムが壊れている危険を感じさせた。そうでなければ、あのフサイチホウオーがここまで失速するはずがない。巻き返しには、時間がかかるかもしれない。