GI級の勝ち馬4頭を中心に近年でも珍しいほどさまざまなタイプの揃った今年の秋華賞は、レベルの高い迫力の好レースが期待された。特に桜花賞馬ダイワスカーレットと、その桜花賞では負けたものの日本ダービーを圧勝したウオッカの再対決。これに割って入ろうというベッラレイア以下の白熱の攻防が見どころだった。
完勝したのは桜花賞馬ダイワスカーレット。先行のスピード能力をフルに発揮し着差以上の楽勝だった。半兄ダイワメジャーとまったく同じようにあふれる1600〜2000m向きのスピード全開。桜花賞に続く2冠を達成した。
秋の3冠目に当たるレースは、男馬の菊花賞の場合だと、皐月賞馬とダービー馬の対決は圧倒的な割り合いで「皐月賞馬」に軍配があがることになっている。また、牝馬の場合の桜花賞馬とオークス馬の対決も同様に、旧エリザベス女王杯やビクトリアC時代にまで遡っても、最初の1冠を制した「桜花賞馬」のほうがずっと成績で上回ることを歴史は伝えている。
ダイワスカーレットの完勝は、3歳馬の3冠レースの歴史のパターンどおりで、なおかつ今年の場合はダービー馬の秋まで象徴してしまったような結果だったといえるのかもしれない。だが、レベルの高い戦いが期待されたわりにレースの中身は案外の凡戦で、肩すかしというか、消化不良の一面もあったことは否定できない。
まず、世代のレベルを反映することも珍しくない勝ち時計は、最近7年間の中では、05年の1分59秒2に次いで遅い方から2番目。しかし一方、レース上がりの3F33.9秒は突出しているから、もちろんレベルが低いわけではない。途中までは例年の秋華賞と同じようなペースで流れたが、ずいぶん縦長の展開になったと思えた中盤に「12.8−13.6−12.4秒」。なんとペースの上がった後半3Fの前は、3角にかけてのけぞりの「38.8秒」。未勝利戦でもめったに出現しないような中だるみのスローラップに陥っている。1400m通過は近年ではありえない1分25秒2だった。
ダイワスカーレットが4角手前であまりにレースの流れが遅すぎて自然に先頭にたったのも当然。というより、もうレースは終わっていたのだろう。大きく離れた位置からおもむろにスパートしたウオッカの上がり3Fは33.2秒。もっと後方から大外に回ったベッラレイアのそれは32.9秒。
流れ(展開)のもたらす明暗がきわめて大きい京都内回りの2000m。控えたウオッカにも、さらに後方で注文をつけたベッラレイアにも、およそ不向きなレースの流れだったことは確かだが、前を行くダイワスカーレットの乗る超スローの内回り2000mの流れとまったく別のところにあるかのようなレースをしたのは、一応はGI級に相当すると考えられている注目のビッグレースだけに、期待したファンは不満だったろう。
ウオッカは、少なくとも「休み明けだから伸び脚もう一歩だった」とはまったく違う印象が強い。ベッラレイアも、ウオッカとダイワスカーレットを逆転するにはこれが必殺の作戦で、またそういう力関係なのだともいえるが、武豊騎手にしては、結果はあまりに物足りない形作りだった。
日本ダービーという別格のビッグレースを勝った馬は、たしかに特別な存在で、必ずしも世代の最強馬ではないといいわれることもあったりする。京都の内回り2000mが不向きかもしれないのは、それもみんなわかっている。しかし、今回のレースはダービー馬としてあまりに不名誉だろう。ウオッカは巻き返したい。別に相手はダイワスカーレットでもない。適鞍はジャパンCだろう。
ベッラレイアはエリザベス女王杯かもしれない。次は、ぜひダイワスカーレットに挑戦する同じ世代のライバルらしいレース運びを期待したい。