春は牝馬ウオッカに完封されてしまった牡馬陣が、別路線から台頭したロックドゥカンブなどを加えてどんな秋の成長を見せてくれるか。これからの中〜長距離路線のエース格に育つような頼もしい馬は出現するのか。いつもの年以上に中身の濃いレースが期待された菊花賞だった。
3分05秒1の勝ち時計は昨年のレコードとはかなり差があるが、最近数年のちょうど平均的な時計。今秋の京都の馬場は必ずしも高速のコンディションではないことを考えると、期待通り、あるいはそれ以上の好内容だったろう。
勝ったアサクサキングスは神戸新聞杯からデビュー時の四位騎手にチェンジし、そのトライアルに続き好位抜け出しの形に徹底してこだわったのが大正解だった。ホクトスルタン(横山典騎手)の作り出したペースはもちろんスローではなく、かといって無理なハイペースでもなく、2000m通過は2分04秒3。セイウンスカイのレコードの逃げ切りの98年が2分03秒9だから、そこに至るまでの道中ラップは多少異なっても、みんなの底力を確認したい菊花賞とすれば理想の平均ペースだったろう。
この流れだと、さらには今年の馬場状態だと、上がりだけが異常に速い3000mにはならない。レース全体が紛れの生じにくいバランスで、位置取りに注文をつけた伏兵の台頭する可能性は少なくなる。この流れに結果としてもっとも巧く対応したのがアサクサキングスであり、同じようにその直後にいたアルナスラインだったことになる。
あまりレース巧者ではないことの多いホワイトマズル産駒の中にあって、アサクサキングスはこれからも大崩れのない中〜長距離型に育つこと必至。大きな展望が広がった。伸び伸び走れる東京、京都などのビッグレース向きだろう。ジャパンCに向かう公算が高く、そうなるとおそらく四位騎手の選ぶウオッカ(ジャパンCの公算大)と、改めての対戦が実現する。この対決はぜひ見たいものだ。
あと一歩及ばなかったとはいえ、決して理想のステップではなかったアルナスラインはダービー・2着、そして菊花賞馬となったアサクサキングスとまったく互角だろう。540kgの大型馬だが、ゆったり見せるだけで、すこしも大きくは見せない素晴らしいバランスに恵まれている。スケールあふれる新星登場は大収穫だった。
ロックドゥカンブは、もしアサクサキングスやアルナスラインと同じようないつもの好位追走の位置取りだったら……と思わせる惜敗だが、キャリアの差もあり、またみんなが理想の形になるのが競馬でもないから、これは仕方がない。アルナスラインとともに春のクラシック組をスケールで上回っている。これは衆目の一致するところで、やがてこの世代のトップに立ってまったく不思議はない。
期待したホクトスルタンは、現時点での力は100%出し切っての善戦だから負けて納得。しかし、もっと成長してくれる大きな可能性は示してくれた。なんとかマックイ―ンの後継種牡馬に合格するくらいのタイトルはやがて獲得できるかもしれない。
ヴィクトリーは神戸新聞杯でアサクサキングスと同じように抱えるテーマをクリアしつつあるように見えたが、外枠だったとはいえ折り合うことができなかった。このあとは2000m前後の路線に向かうことを陣営も決断したようだ。ドリームジャーニーはこのあとどういうタイプに育つのか難しいが、さすがに3000m級はちょっと長すぎるのだろう。相手をねじ伏せるレースを展望できないと、長距離路線は苦しい。作戦勝ちはこの路線ではめったに起こらない。
フサイチホウオーは結果、凡走に近い着順ということになるが、心身のバランスを失いかけているとも思えたスランプは脱しつつあるように見えた。トニービン系の真価を受け継ぐ期待馬とするなら、だいたいトニービンの産駒は3000m級のGI級のレースはだれも勝っていないのだから、この馬こそ今回の3000mは(決して絶好調でもなかっただけに)、距離が合わなかったと考えたい。立ち直れるはずだ。