アストンマーチャンが抜け出し、ウオッカがこれをクビ差捕らえた昨年は1分33秒1の勝ち時計。3着以下はそのあと3馬身半差。善戦組の中にローブデコルテ、ピンクカメオなど後のGI級の勝ち馬がほかに2頭含まれていた。その現3歳世代の牝馬のレベルの高さは十分に知られるが、こと阪神ジュベナイルFの中身に限っていうならこの世代の牝馬の全体レベルもなかなかのものではないか。期待の大きく膨らむ好レースが展開された。
昨年のレースの流れは「34.4−46.3−58.3秒……」。対して今年はむしろ上回るほどの「34.4−46.2−58.1秒……」が前半の1000m通過までのペース。さらには、昨年の1400m通過は1分21秒2。今年が1分21秒1。残り1Fまでまったく「同一」といっていいラップが刻まれている。
昨年はリニューアルされたばかりの阪神の開幕2日目で、どの角度からみても完璧な芝状態。またすんなり流れた昨年と比べると、今年のほうが先行グループの入れ替わりが激しかった。それを考えると数字の差はわずかでも、今年のほうがレース全体のペースはかなり厳しかったのではないか。最後の1F「11.9秒」と「12.7秒」の差で勝ち時計には0.7秒の差が生じたが、昨年の「1分33秒1」と中身はほとんど同レベルのレースを今年の2歳牝馬も展開したと考えたい。もちろん、第二のウオッカがいるなどという意味ではないけれど。
この阪神ジュベナイルFのレース内容の比較だけでレベルうんぬんもないが、マッチレースだった昨年と異なり、今年は一転二転の大接戦だった。来季に向けて期待を上回るぐらいの大きな展望が広がった馬がいっぱいいた。さらに今年の場合は、インフルエンザの影響もあって、期待の有力馬のデビューが全体に遅れているという事情もある。
勝ったトールポピー(フサイチホウオーの全妹)、2着レーヴダムールともに抽選をくぐりぬけた1勝馬。そして関西馬。またまた角居厩舎と、松田博厩舎。なおかつ同じノーザンファーム生産馬。そろって1月生まれ(これは人気種牡馬の多頭数交配を考えた生産手法によるもの)。ステップはまったく異なったが、共通点は多い。
接戦だったから、トールポピーも、レーヴダムールも一歩抜け出した程度の力関係にはとどまるものの、桜花賞路線の「能力の基準馬」、あるいは目安になる馬として3月ごろにはさらにパワーアップしてくるだろう。
差す形で3着のエイムアットビップは、半マイル45.6秒でかかり気味に飛ばしたファンタジーSとは一変の好走だから、負けたとはいえ逆に展望は広がった。人気の中心だったオディールも、早めに動かざるをえない後続の押し上げにあった展開を考慮すれば、1分34秒1の4着なら上々。失速でもない。好位からの抜け出しに期待した伏兵カレイジャスミンは、最後は力尽きて7着に沈んだが、ちょっと行きたがってしまったから今回は仕方がない。
上位人気馬の中では、体の減っていたエイシンパンサーが外枠を意識したためか厳しい流れの中、途中からハナに立つ形で失速したのと、内でもまれたアロマキャンドルが凡走してしまったが、もちろんまだ脱落したわけではない。全体として期待以上のレースレベルを展開させたこの世代の牝馬、春までには遅れている期待馬も加わって、現3歳世代にひけをとらないぐらいの大活躍が期待できそうだ。それもこの世代は、主役一転二転の大激戦になるのではないか。そんな来春を予感させた阪神の1600mだった。