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迫力のある実況をするには

  • 2010年07月17日(土) 00時00分
 先週10日の「ウイニング競馬・オグリキャップ追悼特集」で、90年の有馬記念をスタートからゴールまでお見せしました。在りし日のオグリキャップの雄姿をご覧いただくとともに、20年前の私の実況もお聞きいただいたのですが、いかがでしたか?

 「声が若い」?そりゃそうでしょう。「今より上手」?まぁあの頃は頭や舌の回転も速かったですし、視力もよかったですからね。決して衰えたわけではないんですが・・・。

 ところで、番組内で流れるGIレースの実況について、視聴者の方から、「あれは現場で収録したものですか、それとも映像を見て後からつけたものですか?」と聞かれることがあります。答えは、「ほとんどが現場で収録したもの」です。

「ウイニング競馬」では、関東地区で行われるGIレースは、よほどのことがない限り、現場で実況付きの映像を収録して保存しています。数年前までは、関西の桜花賞、天皇賞・春、宝塚記念、菊花賞も同様に収録していました。そのおかげで、私はディープインパクトが出走したすべてのGIレース(凱旋門賞を含む)をナマで実況することができたんです。これは貴重な経験になりました。

 で、“よほどのこと”というのは、アナウンサーの都合がつかず、実況できる人が競馬場に行けなかった時と、ナマの実況中に“致命的なミス”があった時(ゴール直前で上位争いをしている馬を見失った、ゴールのところで馬名や着順を間違えた、などなど)。ここ20年の間に、そういうことはあわせて3〜4回しかなかったと思います。

 スポーツ中継の実況には、(1)目の前で行われている試合やレースをナマで見てしゃべる、(2)モニター画面のライブ映像を見てしゃべる、(3)収録された映像を見てしゃべる、という3つのスタイルがあります。(1)は基本中の基本。(2)の代表例はNHK・BSのふだんの大リーグ放送。また、そうしたほうが全体を見渡せる競技=ゴルフ、マラソン、駅伝などのメイン実況もこのスタイルで、“オフチューブ”と言われています。(3)は、いわゆる“後付け”。私がかつて携わっていた全米大学アメフトや、ノルディックスキー複合のワールドカップ、バドミントンのスーパーシリーズ(ともにワールドツアーのようなもの)の放送は、だいたいこの方式でした。

 どれがいちばん迫力のある実況になるかといえば、それは当然(1)のスタイル。現場の雰囲気やファンの歓声がダイレクトに伝わってきますから、声の出方が違います。90年有馬記念の私の実況も、「オグリキャップ先頭っ!」と叫んだ時の声がひっくり返っていたでしょう?アナウンサーとしては恥ずかしいことですが、あれが現場でしゃべっていた何よりの証拠です。

 とにかく、「昔のほうが上手だった」と言われないよう、心して実況しなくちゃいけませんね。これからも頑張ります!

テレビ東京「ウイニング競馬」の実況を担当するフリーアナウンサー。中央だけでなく、地方、ばんえい、さらに海外にも精通する競馬通。著書には「矢野吉彦の世界競馬案内」など。

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