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あなたもアブクマポーロに乗れる!種牡馬から乗馬への転身

  • 2012年08月28日(火) 18時00分
 競走馬にとって、引退後の一番の花道は種牡馬になることです。しかし、たとえ種牡馬になれたとしても戦いは続き、淘汰されていきます。今回は種牡馬から乗馬へ転身した馬たちを集めた、北海道のホロシリ乗馬クラブを訪ねました。(ゲスト:山畠輝男支配人)

山の上に浮かぶホロシリ乗馬クラブ

山の上に浮かぶホロシリ乗馬クラブ

赤見 :競走馬から乗馬への転身はよく聞きますが、種牡馬からとなるとあまり聞いたことないです。

山畠 :「そうですよね。絶対に乗馬向きじゃないですから(笑)」

赤見 :ですよね!? 競走馬からでも難しいのに、種牡馬からとなるとさらに大変なんじゃないですか?

山畠 :「もうね、命がけですよ(苦笑)。最初は曳くだけでも苦労しますね。種牡馬にとって他の馬を見たら立ち上がって種付けするのが仕事ですから、立ち上がるわ襲ってくるわ…まるで怪獣です(笑)。

 競走馬から乗馬にする時は、“速く走る”から“ゆったり走る”ことを覚えさせるんですけど、種牡馬からとなると、まずは“種付けじゃない”ことを理解してもらわないと。

 従順性ゼロの状態から、少しずつ人の言うことを聞くように教えて、他の馬と対面させて馬同士のコミュニケーションも取らせるんです」

赤見 :馬同士ですか?

山畠輝男支配人とダイワテキサス

山畠輝男支配人とダイワテキサス

山畠 :「それが1番大事ですね。なぜうちが種牡馬から乗馬に出来るかと言うと、技術うんぬんよりも、夕方から朝まで集団放牧出来る環境にあるからだと思います。

 昼間は乗馬としてお仕事して、夜は放牧地で好きなようにノンビリ過ごす。馬にとって、集団放牧というのは本来あるべき姿ですから、ストレスが溜まりにくいんですよ」

赤見 :なるほど。厩舎ではあまり過ごさないんですね。

山畠 :「雨が降った時は別ですが、基本的には多少の雪も大丈夫ですから。厩舎で過ごすのはご飯を食べる時と、レッスンの合間に一休みする程度です」

赤見 :どのくらいの期間で乗馬に転身出来るものですか?

山畠 :「個体差もありますけど、たいがいは1年ですね。大変だったのはエイシンキャメロン(デイリー杯3歳S、アーリントンCなど制覇)で、1年くらいで乗馬経験者なら乗れるようになりましたけど、初心者が乗っても安心出来るようになるまで3年掛かりました」

赤見 :私の感覚からするとそれでも早いように思うし、初心者の方でも安心して乗れることが凄すぎるんですけど!!

眠そうなアブクマポーロ

眠そうなアブクマポーロ

山畠 :「競馬ファンからすると、そうみたいですね。アブクマポーロ(帝王賞、東京大賞典など制覇)やダイワテキサス(オールカマー、中山記念など制覇)などファンの方が遊びにいらっしゃいますが、写真を撮って行くだけで乗らないんですよ。全然大丈夫なのに」

赤見 :さっき初めて馬に乗る方たちを見学しましたが、アブクマポーロにダイワテキサス、エイシンキャメロンが一堂に会していて圧巻でした!

山畠 :「普段ならそこにライブリマウント(平安S、南部杯など制覇)もいるし、ナリタセンチュリー(京都大賞典、京都記念など制覇)もデビューを控えています。豪華でしょう?」

赤見 :初めて乗る馬がアブクマポーロって…凄い経験ですよね。

山畠 :「曳く人なしで山間コースを散歩出来るんです。馬が道を知ってるし、前の馬にくっついて行きますから。馬の性格によって先頭にしたり、歩く順番は考えますけどね。

 馬の世界でも人間関係のようなものがあって、見ていると面白いですよ。今うちで1番のボスはエイシンキャメロンなんです。前はライブリマウントだったけど、ナンバー2に落ちました(笑)。アブクマポーロは普段は弱いんですけど、1頭だけ大好きな馬がいてね。その馬に他の馬が近づいて来ると戦うんですよ。いつも2頭で気持ち悪いくらいベタベタしてます(笑)」

赤見 :わたし、アブクマポーロに乗りたいって言ったんですけど、却下されました(涙)。

巨大壁画がある森を散策

巨大壁画がある森を散策

放牧地でリラックス

放牧地でリラックス

山畠 :「赤見さんが選んだコースは山の中を駆け上がるタフなコースなんで、アブクマポーロが疲れちゃいますから(笑)。彼は年齢も上ですし、今は初心者用の穏やかなコースのみなんです。ダイワテキサスやエイシンキャメロンは大丈夫ですから、また今度ぜひ」

赤見 :森を抜けて山を走るコース、本当に気持ちよかったです! 山や海で外乗が出来て、馬たちを集団放牧する場所もあるなんて、とてもいい立地ですね。

山畠 :「本州の方にとっては遠いですが、ぜひ乗りに来て欲しいですね。現役時代応援していた方がたくさんいる馬たちなので、そういう馬に気軽に乗れることで、さらに馬を好きになってくれたら嬉しいです。

 あの馬どこに行ったのかな…じゃなく、あの馬はここに行けば会えるよ! という風に、知っていて欲しいですね。馬たちにとっても、行く場所があるというのは大事なことだと思ってます」

 大自然を利用した施設だからこそ出来る、種牡馬から乗馬への転身。引退後の種牡馬たちの新たな居場所では、どの馬もとてもリラックスした表情なのが印象的でした。[取材:赤見千尋/美浦]

◆次回予告
夏競馬もいよいよラスト、次週末からは中央場所の中山&阪神開催がスタートします。そこで次回は、開幕を迎える中山の馬場を、赤見千尋さんが徹底検証。日々奮闘する馬場課の尽力と、馬券のサポートになる!? 耳より情報をお届けします。公開は9/4(火)18時。お楽しみに。

常石勝義
1977年8月2日生まれ、大阪府出身。96年3月にJRAで騎手デビュー。「花の12期生」福永祐一、和田竜二らが同期。同月10日タニノレセプションで初勝利を挙げ、デビュー5か月で12勝をマーク。しかし同年8月の落馬事故で意識不明に。その後奇跡的な回復で復帰し、03年には中山GJでGI制覇(ビッグテースト)。 04年8月28日の豊国JS(小倉)で再び落馬。復帰を目指してリハビリを行っていたが、07年2月28日付で引退。現在は栗東トレセンを中心に取材活動を行っているほか、えふえむ草津(785MHz)の『常石勝義のお馬塾』(毎週金曜日17:30〜)に出演中。

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