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現場一筋42年! 松本晴夫記者に聞くプロの仕事

  • 2012年10月30日(火) 18時00分
 秋も深まって紅葉が色づき、秋のG1レースも盛り上がりが深まってきましたね。

 秋の天皇賞は天覧競馬にふさわしい、素晴らしいレースでした。エイシンフラッシュ、ダービー馬の底力を発揮し、強い末脚を見せてくれ、元気をいっぱいもらいました。感激です。エイシンフラッシュとミルコ・デムーロ騎手の粋な計らいに脱帽ですね。

 そんな中でファンや厩舎を支えている“専門紙のトラックマン”という仕事をしている人たちがいます。どんな仕事をされているのか? 昭和45年に競馬ブック入社というベテラン、松本晴夫さんに情報収集してきました。

 主な仕事は、競走馬に関する情報を収集し、収集した情報および自らの予想を競馬新聞や週刊競馬ブックなどで読者に伝えること。トレーニングセンターや競馬場で行われる調教を見て、馬の体調や状態を関係者に取材。また、調教コースで競走馬の走破タイムを計るウオッチマンという時計班とに、分かれているんだそうです。

競馬ブックの松本晴夫トラックマン

競馬ブックの松本晴夫トラックマン

常石 :いつからこの仕事をされているんですか?

松本 :大学卒業後すぐに入社しました。現場一筋42年ですね。

常石 :出身は九州でしたよね。

松本 :そうそう。競馬場の近くで父が理髪店や2Fで喫茶店をやっていて、競馬関係者がよく来てくれたのがご縁でしたね。

常石 :パドックでは馬のどういうところを見ているんですか?

松本 :基本的には、人間と一緒やね。元気な時は顔色もいいし、しゃきしゃきしている。見て分かる部分と乗って分かる部分の差があるけど、元気のない馬は肌艶毛艶も悪いし、馬体もぼよって感じやな。

 肩こりの馬は、コズミと言って筋肉が硬いので、脚が前に出らんからな。元気でゆっくり、のびのび大きな完歩で歩く馬は、肩がよく出て踏み込みも強いから、1完歩が大きいので前の馬に追いつく。だから外へ出してまわってる馬は、1完歩が大きいんですよ。100m走る時に平均5完歩で走る馬より4完歩半で走る馬が、当然速くなるってことですね。

 精神状態も大事やな。力が出せる状態にあるかどうか。それと、持って生まれた体のバランス。昔から長躯短背という理想な形があるけど、短い距離の馬は胸前がかっていて、長丁場の馬は人間のマラソン選手と同じで薄手で細くて長い。

 コズミというか筋肉の硬さなど、見るところはいっぱいあるけど、パドックでは馬の表情をしっかり見るのが一番大事やな。見て分かるものは間違いない。

常石 :現場にきてよかったことはどんなところですか? 

松本 :現場一筋できたから、中間の馬の状態の変動や、前走の内容や状態。中間に熱発したとか放牧で立て直したとかを予想に活かすことが、僕らの仕事と思ってる。

常石 :好きな馬はいましたか?

好きだった馬は…

好きだった馬は…

松本 :南井騎手が乗ったナリタブライアンやな。馬っぷりもよかったし、レースも強く、自分から勝ちに動ける馬やったな。不思議だった馬はタマモクロスやな。なんで走るのかと思った。首の淋しい体形の馬やったけど、強かったな。今でも分からないな。

 昔、谷八郎厩舎にオースー号って言う馬がおったんだが、500万がなかなか勝てなかった。ものすごい馬っぷりがよくて、品評会に出しても優勝できるくらいの馬だったが、攻め馬もよく走ったけど、競馬に行くと走らんかったな。

布施正厩舎にラフオンテースという馬がいたんだが、馬は小さいが、お尻のあたりからの筋肉の発達しよっているところの筋肉のつき方がものすごくよかった。小さいなりにつき具合が違った。「ラフオンテースのこんなところを見ろ」と、馬の見方を教えてもらった。とっても勉強になったな。筋肉がついていても硬い馬は動かないからね。

 全身を使っての伸びがあり、バランスやバネ、クッションの良さや沈み具合が、跨って分かる乗り味の良さやね。肩が筋肉痛で硬かったらゴトンゴトンってなるわね。瞬発力があり、手前の変え方などが上手かったら、スピードが鈍らないから上手いね。

 馬と厩舎とファンとの間を繋ぐのが僕らの仕事で、いかにわかりやすく伝えるかが、キャリアの違いやね。昔はファンに情報を伝えるだけだったが、キャリアを積んできて経験をしてきたから、厩舎側に情報の提供をし、アドバイスもお互いにやっている。アドバイザーにもなっている。伊藤雄二先生や中尾正先生も戦略的なことを教えてくれましたね。競馬というのは強い馬が勝つとは言えない。弱い馬でも展開や立ち回りの上手さで、勝ちにつながっていく。

藤原英昭調教師との打ち合わせ

藤原英昭調教師との打ち合わせ

 僕らの持っている情報を上手く活用する厩舎が、いい競馬につながっていると思う。前向きのコメントを出す調教師と、泣きのコメントを出す調教師も戦略の一つなんですよ。

 強い馬は強気で前向きの話をしますが、粗探しをし、突っ込みコメントをもらって本音をちょこっと出してもらう。普段からしっかり競馬を見て情報を提供する。現場をまわり、取材は毎日の積み重ねだから、時計だけでは判断しない。調教師の性格を見抜くのも技ですよ。お互いの信頼関係を作り、聞きにくいところを引き出すのが僕らの大切な仕事ですね。

 逆に8着8着と続きマイナスの多い馬には、プラス材料を見つけ、いい話をもって行き情報を提供をすることで、出走させるレースを選んでいける。取材記者はひとつ奥の突っ込みができるかどうか。突っ込みができることによって、競馬の面白さを伝えられることにつながっていく。

 最後にスターホースやスター騎手が出てくると、競馬人気につながってくるので、馬をよく知ってほしいですね

常石 :競馬って言うのは、晴れ舞台だと思っています。トップレベルの花形厩舎や花形騎手が出てくるのは、競馬人気につながってくるでしょうね。施設もとってもいいところですよね。

松本 :イベントをやったり競馬教室をやったりし、レース以外でも競馬を知らない人に伝えていきたいですね。月曜日、火曜日などの週初めにイベントなどしてアピールしていき、競馬場の臨場感や緊張感を伝え、競馬の魅力を伝えて、週末のレースに期待してもらって、多くのファンをつかんで欲しいですね。

 専門のお話をいっぱいお聞きしましたが、パドックの見方をチェックし、皆さんの馬券検討に役立ててくださいね。今年も残り少なくなったレースをお楽しみください。常石勝義ことつねかつでした。[取材:常石勝義/栗東]

◆次回予告
次回は、11/5(月)に川崎競馬場で行われる地方競馬の祭典JBCに、赤見千尋さんが潜入。注目のあの馬の情報などを、たっぷりお届けします。公開は11/6(火)18時、お楽しみに。

常石勝義
1977年8月2日生まれ、大阪府出身。96年3月にJRAで騎手デビュー。「花の12期生」福永祐一、和田竜二らが同期。同月10日タニノレセプションで初勝利を挙げ、デビュー5か月で12勝をマーク。しかし同年8月の落馬事故で意識不明に。その後奇跡的な回復で復帰し、03年には中山GJでGI制覇(ビッグテースト)。 04年8月28日の豊国JS(小倉)で再び落馬。復帰を目指してリハビリを行っていたが、07年2月28日付で引退。現在は栗東トレセンを中心に取材活動を行っているほか、えふえむ草津(785MHz)の『常石勝義のお馬塾』(毎週金曜日17:30〜)に出演中。

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