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ノーザンリバーが差し切り人気に応える/さきたま杯

  • 2014年05月29日(木) 18時00分


◆差し切りは「絶対的な能力の差」

 前日は水の浮く不良馬場だったのが、浦和競馬場は南関東4場の中でも特に水はけがよく、また当日は晴れて気温も上がったことから、馬場は重に回復。水が一面に浮いた名古屋のかきつばた記念では、ノーザンリバー、ダノンカモンという人気馬が追走に苦労する場面があり、必ずしも能力を発揮できたとは言い難いレースぶりと結果だったが、今回はそこまでの道悪は回避できた。

 勝ったのは、単勝1.8倍という断然人気に支持されたノーザンリバー。前回のかきつばた記念は、名古屋の短い直線で、しかも実際に脚が使えたのは最後の100mちょっと。結果、ハナ差とらえきれずの2着だった。今回もやはり短い直線での勝負となったが、先頭に立っていたトキノエクセレントをクビ差とらえての勝利となった。

 ノーザンリバーの馬体重はマイナス10kgの475kgだったが、昨年末に中山のカペラSを勝ったときが478kgで、栗東からの輸送を考えれば許容範囲ともいえ、細く見えることもなかった。スタートは互角で、先行タイプのナイキマドリード、セイントメモリーを行かせて、1コーナー手前では5頭がほぼ横一線の3番手。1コーナーを回るところで蛯名騎手が控える場面があった。映像ではノーザンリバーがコーナーを回りきれないようにも見えたが、蛯名騎手のコメントでは「外の馬に寄られて」とのこと。すぐ外にいたのはタガノジンガロで、その外にグランシュヴァリエ、さらに外にはダノンカモンがいた。このあたり、中央の広いコースと比較するとコーナーはかなりきついので判断は難しいところだが、タガノジンガロが内に切れ込んでいるふうでもない。単に、タガノジンガロ、ノーザンリバー、ともに前の2番手にいたセイントメモリーのすぐ外の同じ位置を取りたかっただけのように思える。タガノジンガロにしてみれば、大外のダノンカモンこそやや外に膨れ気味だったものの、グランシュヴァリエがぴたりと外につけていたため、あれ以上外に行くことはできない。このあたりは複数の馬による位置取りのアヤと言うべきだろう。

 どの馬(騎手)に否があったということではなく、とにかくそれでノーザンリバーは向正面で6番手まで位置取りを下げることになった。そこで、さらにうしろから、ややかかり気味に絶好の手ごたえで位置取りを上げていったのがトキノエクセレントだった。4コーナー手前で先頭のナイキマドリードをとらえて先頭へ。対してノーザンリバーは、蛯名騎手が必死に追うも、このあたりでトキノエクセレントから3〜4馬身ほどの遅れをとった。ゴールまでの直線が200mちょっとしかない浦和では、いくら末脚の切れる馬でも直線だけでの追い込みはあまり現実的ではない。勝負どころは3コーナー手前から。蛯名騎手も「コーナーがきつくスピードの乗りがいまひとつだった」とコメントを残しているように、ノーザンリバーは小回りコースの対応にはやはり難があった。それでも差し切れたのは、それ以上に絶対的な能力の差があったということだろう。

 個人的なことを言わせてもらえば、予想で◎セイクリムズン、◯ノーザンリバーとしたのは、その小回りコースへの適性を考えてのこと。直線の長い大井の東京スプリントでは、ノーザンリバーがセイクリムズンに3馬身差をつける完勝だった。しかしセイクリムズンは、あらためてデータを示すまでもなく、コーナーを4つ回る地方の1400mのスペシャリスト。実際にこのさきたま杯でも、一昨年は8馬身差の圧勝、昨年はテスタマッタに半馬身差の2着と好走。それで逆転可能と考えた。今回は、ともに東京スプリントと同じ斤量。セイクリムズンは1番枠からのスタートで、先行2頭を行かせ、それをすぐ前に見る位置でスムーズな競馬ができた。結果、着順は3着だが、勝ったノーザンリバーとの着差はクビ+2馬身。逆転はできなかったが、東京スプリントより着差は縮まった。

 2着に入ったのは、中央から川崎に転厩して2戦目のトキノエクセレント。3〜4コーナーで上がっていったときの手ごたえに加え、そのまま直線で完全に抜け出したあたりでは、勝ったのはこの馬だと多くの人が思ったのではないだろうか。中央のダートでは今年1月のジャニュアリーSで2着があり、12月のカペラSでは着順こそ6着だが、勝ったノーザンリバーからコンマ4秒差、4着のセイクリムズンとはコンマ1秒差と、差のないレースをしていた。転厩初戦も同じ浦和1400mで、同じように絶好の手ごたえで3〜4コーナーで進出し、直線差し切るという競馬をしていたから、少なくともそれが割引材料となることはない。それでいて単勝27.3倍の7番人気、断然人気のノーザンリバーとの馬連複で18.6倍は、結果論にはなるが、評価が低かった。このオッズについては最後にまとめて触れることにする。

 他の中央馬では、ゴールスキーは中団追走から直線伸びを見せたものの、バテたナイキマドリードをゴール前でとらえての4着まで。前走かしわ記念では、4コーナーから直線を向いて、勝ったコパノリッキーこそ勢いが違ったが、セイクリムズン、ワンダーアキュートとの追い比べとなり、わずかではあるもののその2頭からも遅れをとっての4着。根岸Sで見せたような直線での切れは見られなかった。そもそも直線が短いのだから当然の結果ともいえるが、道中溜めてこその末脚で、かしわ記念のように好位を追走していっても、そこから切れて突き抜けるということがないのが競馬のおもしろいところ。この馬はノーザンリバー以上に、中央の広い馬場(もしくは大井のような長い直線)向きなのかもしれない。

 ダノンカモンは向正面から追走一杯となって9着。専門紙の調教師コメントに「当日パサパサの馬場になれば」とあったように、重に回復した程度では苦しかった。

◆実力ある地方馬を知っていればおいしい配当も

 最後にオッズ面に触れておく。中央4頭が単勝ひと桁台で、タガノジンガロ、セイントメモリー、トキノエクセレントの3頭が20倍台、それ以外は万馬券と、見事に色分けされた。最近の地方で行われるダートグレードではよく見られる光景だ。かしわ記念がそうだったように、GI/JpnIともなると、地方は有力馬が回避してしまうこともあり、オッズの色分けはさらに極端になる。

 たしかに中央馬は層が厚い。しかし、一昨年10月に地方競馬IPATでも馬券が発売されるようになって以降、オッズが極端になりすぎているようなことがたまにある。今回がそのいい例だった。予想でも書いたように、今回、地方馬にはダートグレード勝ち馬が3頭いて、それ以外にも中央オープン経験馬が2頭。そして中央勢はGI/JpnI勝ち馬がいないという、ある程度は拮抗したメンバーだった。さらに、このさきたま杯に限らず浦和で行われるダートグレードでは、ほとんど毎年のように地方馬が3着以内に入っているという傾向もある。今回、ぼくが狙ったのは▲セイントメモリーだったのでハズれたが、先にも書いたようにトキノエクセレントの2着は、その実績を考えれば、結果的にオイシイ配当となった。

 これはあくまでも推測だが、地方競馬IPATでの馬券発売によって参入したファンは、普段は中央競馬しかやらないという人の割合が多いのではないか。それゆえ能力差以上に中央馬と地方馬のオッズに開きができてしまうのではないかと。たとえば今回でいえばナイキマドリード。たしかに近走の成績はよくないが、このさきたま杯は過去3年出走していて1、2、3着。今回は逃げると思われたセイントメモリーより内枠に入ったことでハナを主張し、直線でも3着に粘るかという場面はあった。実際に3着のセイクリムズンとも1馬身+クビの差。それでいて単勝は152.4倍、馬連複でもノーザンリバーとの組み合わせで151.2倍というものだった。

 一線級の馬ばかりで中央枠が埋まってしまうGI/JpnIでは、たしかにオッズの極端な乖離がそのまま実力差という場合がほとんどだ。しかしJpnIIやJpnIIIでは、ある程度実力がある地方馬の評価が不当に低いという状況もしばしば見られる。それを気にしていれば、ときにおいしい配当にありつけることがあるかもしれない。

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1964年生まれ。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。ドバイ、ブリーダーズC、シンガポール、香港などの国際レースにも毎年足を運ぶ。

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