◆自著についても少々…
この稿がアップされるときにはもう、後藤浩輝騎手は約7カ月ぶりとなる実戦での騎乗を終えている。
本気で引退を考えたほどの状態から、よくぞ復活してくれた。
復帰初日となる「いい府中の日(11月22日)」は5鞍、23日の日曜日は8鞍、24日の月曜日は6鞍に騎乗する。
デビュー23年目の40歳。数字からはベテランと表現すべきなのかもしれないが、顔がそうであるように、彼の肉体は実年齢よりはるかに若い。リハビリと呼ぶにはハードすぎるトレーニングをみっちりこなし、馬上での感覚もとり戻してきた。
私たちは、「騎手・後藤浩輝」をまたとり戻すことができた。
さて、今週、俳優の高倉健さんの訃報が伝えられ、「健さん」がいかに大きな存在だったかあらためて認識させられた。
火曜日の夜、最年少ダービージョッキー・前田長吉の兄の孫の前田貞直さんからメールが来た。
「1970年に『日本ダービー 勝負』という映画が公開されました。高倉健さんのほか、三橋達也さん、梅宮辰夫さんも出演しています。大川慶次郎さん(元タイヘイ牧場経営者・大川義雄氏の子供)が企画した映画で、菅原文太さんが前川長太(前田長吉)役を演じています。40年以上前のダービー映画ですが、この機会に見ることができれば素晴らしいと思います」
といった内容だった。
「大尾形」と呼ばれた伯楽・尾形藤吉をモデルとし、その半生を描いた作品だという。三橋達也さん(故人)が演じる主人公の「山形正吉」が北海道から単身上京して騎手となり、その後調教師として次々と管理馬をダービーに出走させ、勝ったり負けたりを繰り返す。健さんは、伊藤正四郎(後藤騎手の師匠である伊藤正徳調教師の父)をモデルとした島崎清三郎役で登場する。作中では実際のレース映像も使われているようだ。
「ようだ」と表現したように、私はこの作品を見たことがない。
貞直さんではないが、この機会に見ることができないか、それも、ひとりで見るのではなくテレビで放送されるようにできないものか……と、グリーンチャンネルの番組などでお世話になっているSプロデューサーに相談した。なんとか実現してほしいと思う。
「競馬史」にふれる作品の話になったところで、それに関する自著について、少々。
天を駆けた名馬がいた。
天馬に騎乗し、
虹を駆けぬけたジョッキーがいた。
伝説となった虹のかがやきを
著者は見事に描いた。
これは、直木賞作家の伊集院静氏が、2008年1月に上梓した拙著『伝説の名ジョッキー』に寄せてくださった帯文である。
そして、次の短歌は、明治から昭和にかけて、アララギ派の歌人として、また医師として活躍した斎藤茂吉によるものだ。
最上川の上空にして残れるは いまだうつくしき虹の断片
歌集『白き山』所収のこの歌も、初めて目にした瞬間、好きになってしまった。
競馬史が好きで、時代小説や歴史小説も大好きな私は、
――いつか、近代競馬の黎明期から現代に架かる「虹」を描いた小説を書きたい。
と思いつづけてきた。
昭和の初め、斉藤すみは、騎手になるためさらしを巻いて胸を押しつぶし、男装して修業した。
函館孫作は、42歳にして第1回東京優駿大競走を勝ち、初代ダービージョッキーとなった。
青森から家出同然に上京した前田長吉は、最年少でダービーを勝った翌年、満州の戦地に旅立った。
抗いようのない時代の荒波にもまれながら、彼らは力強く生きた。そんな伝説のホースマンたちに新たな命を吹き込み、活き活きとした笑顔や、頬をつたう汗や涙をしっかりと描きたい――と、昨春から今春にかけて『週刊ギャロップ』に連載したものを大幅に加筆・修正し、11月28日、産経新聞出版より単行本『虹の断片(かけら)』を上梓することになった。
近代競馬の黎明期を支えた競馬人たちが架けた虹とは――。
担当編集者のH氏が帯にそう書いてくれたのだが、私が描きたかった「虹」は、すみや長吉たちの思いであり、夢であり、そして、彼らの存在そのものである。
448ページと、これまで上梓した本のなかで最も厚い。上製(ハードカバー)は、『ありがとう、ディープインパクト』以来7年ぶりになる。
図書コードが「日本文学、小説・物語」のものなので、書店ではそのコーナーに置かれることが多くなると思う。そこと、「体育・スポーツ」に分類される競馬本コーナーの両方に置いてほしいのだが、贅沢は言っていられない。
どのくらい売れているのか「初速」がわかる12月上旬、自分が舞い上がっているか、ドヨーンとしているか、想像するのが怖いのでやめておく。
「少々」と言っておきながら、結構な量の手前味噌になってしまったことをお許しいただきたい。