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カジノ解禁で競馬は?!有識者座談会(2)『公営競技の現場が気を付けなければいけないこと』

  • 2015年01月19日(月) 12時00分
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▲「公営競技の現場は気を付けなければいけない」と提言する須田鷹雄さん


前回の座談会で見えてきた、本当のカジノ推進派が誰なのか、そしてカジノ実現にはだかる現実問題。さらにここにきて、有力な候補地であった沖縄県が「好調な観光産業に影響」と、誘致を見送る方針を固めた。トーンダウンの兆しで、競馬に及ぼす影響はないということか!? しかし、須田鷹雄さんは、「もしカジノが実現した場合には、公営競技の現場が気を付けなければいけないことがある」と発言。はたして、その真意とは。

(出演者:須田鷹雄さん、日経新聞・野元賢一記者、目黒貴子さん、司会:赤見千尋さん)



カジノ側が仕掛けるプレゼンテーション


(つづき)

赤見 前回のお話からすると、カジノはちょっとトーンダウンというか?

須田 一瞬現実も動いたがために、いろんな立場での損得と欲と、逆に防衛本能とかが入り乱れて、カジノは難しい状況にはなっているようですね。

目黒 となると、競馬にとってはそこまで脅威と思わなくてもいい?

須田 そうなんですけど、ただ、それでもカジノをやろうという人間はがんばり続けるわけです。なにかの拍子にとりあえず作ってみようかということになって、1回はできるとなったときに、公営競技の現場は気を付けなければいけないわけです。というのは、カジノを推す側は、「公営競技みたいなものは時代遅れでダサくて、将来性がないものだ。これからはカジノだ!」というプレゼンテーションをしてくる可能性があるわけですよ。

赤見 えっ、どういうことですか?

須田 Jリーグが出来る時、野球を否定するところからブランドを作ろうとしたでしょう。「野球はおっさんが見るダサいもの。サッカーはかっこいいヤングが見るもの」という。用語もいちいち、野球と被らないように作って。

目黒 「サポーター」とかですよね。あと、ジャンプしたりとか、応援の仕方も野球とは違いますね。

野元 実際に調査してみても、やっぱりスタジアムに来る人の年齢層は、微妙に違っていたのは事実ですね。

須田 カジノ側は当然、中央競馬なんかはまだしも、地方競馬や競輪みたいなものを否定してカジノを肯定するというアクションをしてくるわけですよ。10年近く前ですかね、カジノ推進派が当時担いでいたある国会議員が講演をしたんです。その時はその議員の地元の地方競馬の話を出して、「公営競技みたいな公設公営のものなんてダメなんですよ。潰れかけているでしょう。だって、いまどき平日に開催しているんですよ、皆さん」と言うわけ。

目黒 我々のように競馬を知っていれば、むしろ土日はJRAと戦わないといけないんだから、平日場には平日場の強みがあることは分かりますよね。

須田 でも、競馬を知らない聴衆は「そうだ」と思っちゃう。そういうことの繰り返しで、彼らは攻めてくるはずです。

赤見 その動きが大きくなると…

須田 次になにが起きるかっていうと、今まで散々競馬に食わしてもらったはずの広告代理店とか媒体とかも、平気で競馬を否定することをし始めて、カジノをブームアップし始める可能性もあるわけです。地方競馬の広報予算なんて無いに等しいし、JRAだって昔ほどおいしいクライアントではない。カジノのほうがおいしい、となればそちらになびくでしょう。媒体の中には自らカジノに関わろうとしているところもあるわけですし。

目黒 怖い話ですね…。

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▲須田「競馬を否定してカジノをブームアップする動きが怖い」


須田 JRAや競馬界って悪い意味でも上品さと優しさがあるから、あんまり手荒なことはしないし、言わない。でも、カジノを担いでいる人たちはたくましくなんでもしますからね。その戦いに競馬が負けて、競馬のブランドイメージが落ちるということはあり得る。

  一番怖いのは、メディアが「これからはカジノだ。競馬なんかダサい。公営競技に未来なんて無い」って言い出したら、「そうなんだ」「そうだな」って洗脳されちゃう人がいるわけ。「55年体制はだめなんだ。これからはこっちだ」とメディアがワーワー言ったら、民主党政権がポッと出来ちゃうぐらい、日本人というのは主体性がないんですよ。

赤見 ふわっとした民意ってやつですね。イメージに流されやすいのかな?

野元 もう1つイメージという話で言いますと、やはり依存症問題への対応というのが大きいと思います。実は日本で依存症の研究って、蓄積がすごく貧弱なんです。特にギャンブル依存症は。専門家と称している人たちも、アルコールや麻薬に取り組んできた人が実は多いです。

 しかも、「あなたはギャンブル依存症ですか?」という質問に、日本人の8.7%が当てはまるという調査結果が昨年夏頃メディアに出ていましたが、あの数字も結局、質問票の作りや設計によって全然違って来てしまうのです。第一、全国に1万1000店、朝10時から夜11時までパチンコ店が営業している国ですから。世界中探したってこんな国は日本以外にない。それでも依存症のアンケートは国際的に統一された基準を適用しますので、どうしても「日本は依存症大国」といった結果が出てしまう。

 しかも、こうした数字は様々な関係者のポジショントークの材料に使われる。前回、須田さんがおっしゃった通り、この数字は、依存症対策の団体を設置するといった利権を提示しなければ、厚生労働省が「こっちも黙っちゃいませんよ」と信号を出していると読むべきでしょう。

カジノが逆立ちしてもできないこと


須田 イメージ論が躍りだすと嫌なんですが、単純に経済的なことだけなら、ただのカジノが日本にいくつかできましたぐらいでは、競馬の屋台骨は揺らがないと僕は楽観視しているんです。これは競馬サイトの座談会ですので、別に競馬にデメリットがなければいいわけで。

赤見 はい! そこが一番気になります!!

須田 実際、売上がカジノに移転するかどうかで言ったら、パチンコよりは公営競技の方が食われないと想像しています。パチンコやカジノが逆立ちしてもできないという優位な点が、競馬に限らず公営競技にはあるんですけど、分かりますか?

赤見 優位な点ですか? ………分かりません。なんですか??

須田 それはもう、ネットで買えるということですよ。今のところネットカジノの議論は出ていないですからね。カジノとパチンコは現場に行かないとできないじゃないですか。競馬は自分の携帯でもパソコンでも買えるわけですけど、カジノに人間が行っちゃったら、物理的に体はそこにあるから、パチンコはその間食われているわけですよね。

目黒 なるほど。パチンコはカジノに溶かされる可能性があるけど、競馬ならある程度両立も可能ということですね。

須田 そう。そう考えると、今のうちに競馬は足場をある程度固めておいた方がいいわけ。もうひとつは客の文化というかメンタリティーの違いですね。例えば、ばんえい競馬の帯広競馬場にJ−PLACE(地方競馬施設におけるJRAの勝馬投票券の発売所)を作っても、ばんえい側はさほど食われてないでしょう?

赤見 でも、高崎競馬はダメでした…。

須田 高崎や一時の岩手は、サラブレッド同士だから中央に食われましたね。しかし帯広は南関の場外も売れない反面、サラブレッドに食われる率も低いわけです。それはばんえいファンとサラブレッドファンの文化の違いというか隔絶ですね。そう考えたら、公営競技よりはパチンコ、パチスロやっている人の方が、カジノにまだ流れやすいのかなとも思うし。

赤見 ちょっと話がそれちゃうのですが、船橋オートの廃止が決まったじゃないですか(経営難を理由に2016年3月で廃止)。カジノが入ってくることが、ギャンブル産業として刺激になるっていうことはないですか?

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▲「カジノが入ることがギャンブル業界の刺激になったりは??」


須田 現状で計算できるのは、同じ競技内での刺激のほうだと思いますね。地方競馬IPATはJRAが地方へ現金でなくお客さんを与えるという面でよかったし、地方競馬アレルギーが払拭された結果、IPATで売らないばんえい競馬まで伸びてます。

目黒 最近は1億円超えの日も増えて好調ですね。

須田 競輪や競艇もネットを中心にそれぞれ工夫していますが、その中で言うと、オートはどうしても立ち後れ感があるような気がします。

野元 あとはやっぱり控除率で失敗したというのが致命的だったのではないですか。2012年競馬法改正の当時、他の公営競技でも施行者が裁量で払戻率を決められるようになりました。法改正にダボハゼのように飛びついたのがオートレースで、赤字が深刻なので一律70%にしてしまった。結果は売り上げの大幅低下です。今は他競技が比較的に売り上げが堅調なのに、オートは独り負けです。

目黒 ネットだと、控除率の高い競技から低い競技へ移りやすいですしね。

須田 それでも不思議なもので、本場の売上はひどくは下がらないようですね。ネットが完全に他競技に食われたと。これもお客さんの文化やメンタリティーの問題ではないかと思います。

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野元 逆に言うと、競輪や競艇も含めて、今の売り上げ増加は、消費税引き上げの影響という仮説も成り立つのです。パチンコに行っても玉が前より出なくなったのではないか。その反動で、公営競技が得をした可能性があります。

須田 それは検証が必要ですが、仮にそれがあるとしたら、競馬、競輪の方がゆっくりと自分のペースで溶かす面があるから、機械に人間が合わせるパチンコ、パチスロよりも、自分のペースで打てる公営競技っていいな、という気になっている面はあるかもしれない。

目黒 それが正しいとすると、これも競馬がパチンコよりはカジノに食われにくいであろうということになりますかね。よほどカジノのミニマムベットが安くない限り。

須田 ただ、パチンコ、パチスロの客をそのまま何割かカジノが持って行けると思ったら、これもこれで甘い見通しですよということをカジノの人には伝えたい。

赤見 それはなぜですか?

須田 カジノゲームって、期待値をプラスにできる技術介入性が無いんですよ。無いに等しい台数のビデオポーカーくらいでしょう。基本的には純粋に確率に身を委ねるもので、かつ期待値は1未満です。でもパチンコ、パチスロって、すごくちゃんとがんばると勝てるものなわけです。だから雑誌も成り立つし、CSでやっているような専門的な番組も成り立つ。

野元 ギャンブル研究で有名な、大阪商大学長の谷岡一郎さんが、20世紀の終わりぐらいに書いた本の中で、「パチンコって結局、開店前に並んで出る台の前に座った人が有利だからフェアじゃないのではないか」という言い方をしていて、面白いなと思ったことがあります。誰にも平等に勝つチャンスがあるのがフェアなのか、努力したら報われるのがフェアなのか。これは哲学の領域かもしれない(笑)。

須田 パチンコ業界では、がんばって並んだやつが勝つのはフェアだっていう考え方でしょう(笑)。

目黒 競馬は控除率が高くて勝つのは困難だけど、自分の予想理論次第で勝てるかもしれないという夢はありますよね。確率部分がブラックボックスでもありますし。

須田 そう。競馬には「かも」っていうファンタジーはある。要は、馬を見られるようになったら、血統に詳しくなったら儲かる「かも」。そして、それを目指す動機も生まれるわけです。

 でも、カジノは運に身を任せるもので、個人的にカジノの快感は運というどうしようもないものに対して勝った時の快感なのではと思います。これはパチンコ、パチスロとも文化が違うものです。パチンコ、パチスロを雑に打っている人たちならカジノにスッと行けるのかもしれないですけど、ストイックに打っている人は、それを止めてカジノには行きたくないと思います。(次回へつづく)

東奈緒美 1983年1月2日生まれ、三重県出身。タレントとして関西圏を中心にテレビやCMで活躍中。グリーンチャンネル「トレセンリポート」のレギュラーリポーターを務めたことで、競馬に興味を抱き、また多くの競馬関係者との交流を深めている。

赤見千尋 1978年2月2日生まれ、群馬県出身。98年10月に公営高崎競馬の騎手としてデビュー。以来、高崎競馬廃止の05年1月まで騎乗を続けた。通算成績は2033戦91勝。引退後は、グリーンチャンネル「トレセンTIME」の美浦リポーターを担当したほか、KBS京都「競馬展望プラス」MC、秋田書店「プレイコミック」で連載した「優駿の門・ASUMI」の原作を手掛けるなど幅広く活躍。

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