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海外レース馬券発売に向けて

  • 2015年01月17日(土) 12時00分


 今週の初め、「ついに」とも「いよいよ」とも「やっと」とも感じられるニュースが舞い込んできた。

 当サイトのニュースページでも報じられたように、政府は12日、日本の競走馬が出走する海外レースの馬券を、JRAなどが国内で発売できるようにする方針を固めた。26日召集予定の通常国会に競馬法改正案が提出される見込みだという。

 公になってから法案提出までのスピード感からして、しっかり根回しされたうえでの発表だったのだろう。昨年の有馬記念プレミアムレセプションパーティーで、自民党競馬推進議員連盟の橋本聖子会長が「海外で活躍する日本馬の馬券を買うことができるよう整備を進めたい」と発言したことも、それを示している。

 法改正に向けた動きの背景にあるのは、海外のビッグレースにおける日本馬の活躍である。最近では、2012、13年の凱旋門賞でオルフェーヴルが2着になり、11年のドバイワールドカップをヴィクトワールピサ、14年のドバイシーマクラシックをジェンティルドンナ、ドバイデューティフリーをジャスタウェイが制するなどしている。

 少し時代をさかのぼると、海外の重賞で入着した馬に報奨金が支払われるようになった1995年にフジヤマケンザンが香港カップを優勝。98年にはシーキングザパールがフランスのモーリスドゲスト賞を勝って日本馬による海外GI初制覇を達成し、翌週、タイキシャトルがジャックルマロワ賞を勝ち、日本馬による2週連続仏GI制覇という偉業がなされた。

 そうした「歴史的瞬間」を、馬券を手に、普段府中や中山、大井などで見ている競馬の延長線上のものとしても感じながら目撃する喜びは、いかばかりか。

 現行制度では、JRAや地方競馬の主催者は海外レースの馬券を販売することはできないが、競馬法を改正することによって、農林水産相が国内の競走馬の実績などを基準に指定したレースの馬券を海外の主催者に代わって発売することができるようにするとのこと。

 JRAなど国内の主催者は、海外の主催者からレース映像の提供を受けることになるわけだが、テラ銭をどのくらいにし、うち何パーセントが海外に行くのだろうか。放映権料とのからみはどうなるのか、オッズはどう設定されるのか、また、日本はフルゲート18頭なのに対し、凱旋門賞は20頭など、「主催者マター」の課題はいくつもあるが、ともかく、最初の一歩が日本の競馬界にとって大きな一歩になることは間違いない。

 海外レースの馬券が国内で売り出されることによるメリットはきわめて大きい。

 まず、その売り上げを原資に畜産振興支援などの公益事業を強化することができる。そうした大義名分ができると、14年に打ち切られた、海外に遠征する日本馬に対する補助金、報奨金の復活につながるかもしれない。数字に現れる形で「お国のため」になるのなら、海外レースへの有力馬の出走をふたたび強く推進しても問題視されないだろう。

 また、13年から日本の降着ルールが変わり、カテゴリー2のルールだった12年までより降着・失格が発生しづらくなり、当初は戸惑いの声もあがっていた。それも、ファンが、馬券を売り出す海外のレースを目にする機会が増えると、カテゴリー1のルール下でのアウトとセーフのケーススタディを自然と繰り返すことになり、ルールの浸透につながる。今でも、ネットなどで海外のレース映像を簡単に見ることはできるが、金を賭けて見るのとそうでないのとでは、映像に向ける注力が格段に違ってくる。

 そのうち、日本馬が出ていなくても、主だったビッグレースの馬券を買えるようになったり、日本のレースの馬券を海外で買えるようになるかもしれない。

 そうなると、フランス人やイギリス人の武豊ファンやノースヒルズファンが増えて、先日、紀伊國屋書店主催で行ったトークショーのようなイベントに、ラテンやアングロサクソンのお客さんも来るように……なんてこともあり得るわけだ。

「世界に通用する馬づくり」をスローガンに、ジャパンカップが創設されたのが81年。今から34年前のことだ。これが40年とか50年とかの節目なら原稿をまとめやすかったのだが、ともかく、お肌の曲がり角や何かをとうにすぎていることは確かだ。

 日本競馬界のレベルを一気に押し上げたサンデーサイレンスの産駒がデビューしたのは94年だから、21年前だ。

 お、見つけた。先述した、海外遠征に出る日本馬に補助金を出すようになったのが95年だから、あれからちょうど20年なのか。

 20年目のこの一歩が、競馬ブーム再燃への一歩(ブームの是非論は置いておく)になることを願っている。

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作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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