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騎手を育てるということ

  • 2015年02月13日(金) 18時00分


◆年末に素晴らしい成績を残した雑賀厩舎&永森騎手のコンビ

 毎年NARグランプリの表彰式を取材していると、表彰者、表彰馬の関係者の想いはさまざまであることに気付かされる。週に5〜6日ほども開催があって賞金的にも恵まれている南関東と、週に2日ほどの開催で重賞の1着賞金も数十万円しかない競馬場では、おのずと目指すところが違うし、限界もある。

 そんな中で今回、特に印象に残ったのが4年連続で最優秀勝利回数調教師賞を受賞した高知の雑賀正光調教師だ。

 昨年の調教師全国リーディングは、ずっと名古屋の角田輝也調教師がリードしていて、雑賀調教師は2位だった。しかし、正確にはいつの時点だったかは覚えていないのだが、11月から12月にかけてのあたりで雑賀調教師が逆転してトップに立つと、最終的には雑賀調教師235勝、角田調教師221勝と、14勝差をつけて4年連続で全国リーディングの座を堅守した。このことについて雑賀調教師はNARグランプリ表彰式当日の共同インタビューで、次のように話していた。

「去年は最初厳しかったので(リーディングは)ダメかと思っていました。所属の永森(大智騎手)を育てなあかんというのがあって、それが成功して、終盤一気に伸びました」

 その永森騎手は、2010年は年間56勝だったが、雑賀調教師が初めて全国リーディングとなった2011年には124勝と勝ち星を倍増。そして2012年170勝、2013年155勝、昨年は195勝を挙げ、高知では不動のリーディング・赤岡修次騎手に19勝差まで迫った。さらに今年、2月12日現在では永森騎手37勝に対して赤岡騎手25勝と、すでに10勝以上の差をつけてトップに立っている。

 ちなみに、2014年の雑賀厩舎&永森騎手のコンビによる月ごとの成績を集計してみると…

※数字は、出走数-1着-2着-3着/勝率%
1月:29-7-8-4/24.1
2月:42-12-10-4/28.6
3月:59-19-13-9/32.2
4月:46-16-10-4/34.8
5月:53-15-11-8/28.3
6月:44-10-6-7/22.7
7月:45-15-11-5/33.3
8月:36-9-8-9/25.0
9月:35-8-10-5/22.9
10月:55-14-16-9/25.5
11月:55-19-15-4/34.5
12月:60-27-14-5/45.0
計:559-171-132-73/30.6

 この数字を見ると一目瞭然。11月と12月の勝利数、勝率がスゴイ。そして永森騎手は昨年挙げた195勝のうち、じつに171勝を所属する雑賀調教師の管理馬で挙げていた。まさに雑賀調教師がインタビューで語った、「永森を育てる」「それが成功した」ということが数字に表れている。この「成功した」には、永森騎手を育てることと、4年連続の全国リーディング獲ることの2つの意味が込められているのだろう。

 つい先日、永森騎手と話をする機会があり、この昨年の躍進にはさぞ喜んでいるのかと思ったのだが、しかしまず出たのは、「いやー、キツイですよ」という言葉。乗るのはほとんどが人気の馬で、勝たなければいけない、勝って当たり前というプレッシャーはかなりのものだったらしい。トップを狙うということは、それほどのことなのだ。

 昨年は最後の追い込みもすごかった。大晦日の高知開催、永森騎手は雑賀厩舎所属馬のみ7頭に騎乗があり、4勝2着2回という成績を挙げた。その中には、高知競馬最大のレース、高知県知事賞での勝利もあり、永森騎手は3年連続、雑賀調教師は4年連続での制覇という快挙ともなった。

 ひとりの騎手を育てる、ということの、ものすごい例を見せられたような思いだ。

1964年生まれ。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。ドバイ、ブリーダーズC、シンガポール、香港などの国際レースにも毎年足を運ぶ。

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