この稿がアップされる4月25日、土曜日から、東京競馬場の競馬博物館・特別展示室で特別展「伝説の騎手・前田長吉の生涯」が開催される。また、同日から、横浜・根岸の馬の博物館では「歴史コミックと馬」展が催される。
ということで、今回は、後者のコミック展にちなみ、「競馬文学」に関するクイズをいくつか。
■Q1
まさに春のクラシックたけなわ。クラシックを勝ち抜くには、競走能力が高いだけではなく、陣営が組み立てたスケジュールどおりにレースに出つづける「丈夫さ」も求められます。
つまり、「無事是名馬」というわけですが、ここからが問題です。
日本で初めて「無事是名馬」という言葉が活字になったのは、昭和16(1941)年の競馬雑誌『優駿』6月号です。
その「無事是名馬」というタイトルの文章を書いたのは、次の3人のうち誰でしょう。
(1)菊池寛 (2)舟橋聖一 (3)サトウハチロー
■Q2
『花物語』『あの道この道』などで知られる女流作家・吉屋信子もまた、大変な競馬好きで、馬主でもありました。
吉屋は、昭和26(1951)年の春、10戦10勝でダービーを勝った、ある名馬が急死したとき、新聞に談話を寄せました。
それにより、その名馬は今も「幻の馬」と呼ばれています。
吉屋信子が「幻の馬」と呼んだ名馬は、次の3頭のうちどの馬でしょうか。
(1)ワカタカ (2)クリフジ (3)トキノミノル
■Q3
菊池寛、吉川英治、吉屋信子など、競馬好きの作家は馬主になることが多いですね。
ということで、問題です。
詩人、劇作家として活躍し、惜別の詩「さらばハイセイコー」、エッセイ集『馬敗れて草原あり』など、競馬関係の作品を数多く残した寺山修司も競走馬を所有した。○か×か、どちらでしょう。
(1)○ (2)×
競馬を知らない人は勘で答えるしかないが、カルトクイズとするにはストレートすぎる……ということで、難易度は「中の上」ぐらいだろうか。
では、正解コーナーに移りたい。
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■A1
正解は(1)番の「菊池寛」です。
「文壇の大御所」と呼ばれ、芥川賞・直木賞などを考案した菊池寛は、大の競馬好きとしても知られていました。
昭和11(1936)年には『日本競馬読本』を出版し、そのなかの「我が馬券哲学」は、現在にも通じる金言がいくつもあります。
馬券好きが高じて馬主になり、吉川英治、富田常雄などの流行作家を競馬場に呼び、スタンドを文壇サロンのようにした人物でもあります。
■A2
正解は(3)番の「トキノミノル」です。
トキノミノルは無敗でダービーを勝った17日後、破傷風で急死しました。
それを報じる「夕刊毎日新聞」に吉屋信子の次のような談話が掲載されました。
「トキノミノルは天から降りて来た幻の馬だ。競馬界最高の記録をうちたて、馬主にこの上ない栄冠を与えたまままた天に帰って行った。強く後世まで印象に残るだろう」
以来、トキノミノルは「幻の馬」と呼ばれるようになりしまた。
今もトキノミノルのブロンズ像が東京競馬場にあり、待ち合わせの目印などに利用されていますね。
■A3
正解は(1)番の「○」です。
寺山修司は、地方競馬の船橋に在籍したユリシーズという馬を所有したことがあります。
昭和39(1964)年、寺山が好きになったミオソチスという牝馬が地方競馬に移籍しました。それをエッセーで「草競馬に落ちる」と表現すると、船橋の森誉騎手から抗議の手紙が来ました。その後、森騎手が調教師になると、寺山は最初で最後の所有馬を森厩舎に預けました。それがユリシーズだったのです。
全問正解した人は、かなりの競馬通であり、競馬文学通、競馬史通と言えよう。
実は、3問目は、寺山の作品としておそらくもっとも広く知られている、国民的アイドル・ハイセイコーへの惜別の詩「さらばハイセイコー」を題材にしようかと迷った。
その詩の最初の節に出てくる少年工は、ハイセイコーが勝つたび、「うれしくて」、何を「三杯も食べた」か、という問題だ(カギカッコ内は原文)。
食べたのは「カレーライス」「オムライス」「カツ丼」のどれか、という三者択一にしたら面白いかも、と。
正解は、カレーライス。
今週土曜日は馬の博物館、日曜日は競馬博物館で展示を楽しむ予定だ。もちろん、馬券も買う。カレーライスを3杯食べたくなるようなレースを見られれば最高である。