カシノエイシを知ることで始まるドラマがある/吉田竜作マル秘週報
◆カシノエイシのファーストインプレッションは普通に見て立派に感じる馬だった
年を重ねることが怖くなる年頃…と書くと「思春期の童貞じゃあるまいし」と言われそうだが、40を超したあたりから「もう誕生日はいらん」と思う気持ちが強くなってきた。これって記者だけではない、ですよね?
そんなこじれた中年のハートを癒やしてくれるのは、やはりPOGだ。勝った、負けたの話ではない。DNAをつないでいくことに心血を注ぐ人たちの熱い思いに触れることで「年を重ねるのも悪くないかな」と思わせてくれるからだ。
8日にゲート試験を突破した馬の中にカシノエイシ(牡=父エンパイアメーカー、母カシノエスケイプ・日吉)の名があった。関東圏ではなじみがないかもしれないが、栗東の梅内厩舎に所属していた母カシノエスケイプは関西圏のダートを中心に走り、準オープンまで出世。主戦を務めたのはその梅内厩舎でデビューしたばかりの大下(現在は藤岡厩舎に所属)だった。
いわゆる“あんちゃん”を乗せ続けるのはどこの厩舎でも簡単なことではない。オーナーからすれば子供のように大切な愛馬。そこに未熟な騎手を乗せるとなれば、「勘弁してくれ」との声が出るのも当然。梅内元調教師も現役時代、「(大下)智を乗せるにはいろいろ苦労があるんだよ」と何度となくこぼしたくらいだ。
それでも馬と人というのは不思議なもので、そのうち「智じゃなきゃ走らん」となったりするもの。実際、500万下、1000万下での勝利、準オープンでの連続2着は大下が騎乗してのものだった。
計33戦を走り、6歳で引退。鹿児島で母となることが決まったカシノエスケイプだが、九州では花婿を選ぶにも選択肢が少ない。最初の種付けは北海道まで出向き、婿にはマーベラスサンデーを選択。そうして誕生した馬こそが後に1000万下で一般馬相手に2着に健闘するカシノランナウェイだ。
また父がバゴに替わった1つ下のカシノタロンも3歳春に一般馬相手の500万下を快勝。なんと単勝2万7000円もつく超大穴を演出したわけだが、続く昇級1000万下でもクビ差2着に好走しフロックではないことを証明した。
正直いうと、兄姉として挙げたこの2頭、お世辞にも格好のいい馬ではなかった。カシノランナウェイは脚が短めだったため横幅が目立ち、前脚の出もスムーズではなかったと記憶しているし、カシノタロンにいたっては「よくこれで走れるよな。巻き上がる腹がない」と梅内師が心配するほど線の細い馬だった。そうした背景もあったからなのだろう。「俺は引退だから預かれないんだけどな。エンパイアメーカーの子はいいぞ」と生まれて1歳にもならないあたりから、梅内師が何度もこう口にしていたのをハッキリと覚えている。
で、記者的には大注目だったカシノエイシのファーストインプレッションは、特殊だった兄姉2頭との比較ではなく、普通に見て立派に感じる馬だった。上背が少しあり過ぎる感もあるが、これはエンパイアメーカー産駒によく見られる傾向。とにかく縦横のバランスがいい。兄姉以上を期待していいのではないか。
「ゲートは悪いというよりも、ふざけていたのもあって2度落ちたけどね。乗り味はいいし、ひまわり賞(九州産限定のオープン特別)と言わず、一般馬相手のフェニックス賞に使えるようになるといいね」と日吉調教師も入厩後の感触で目標を“上方修正”。老伯楽の思いは確実に新進気鋭のトレーナーに受け継がれている。
POG視点でも数少ない「計算が立つ馬」となろうか。何せ一般馬相手でも戦えるポテンシャルがある九州産馬なら手堅く稼いでくれる可能性は相当高いからだ。
梅内元調教師、カシノエスケイプを知る人も、知らない人も、カシノエイシを知ることで始まるドラマがある。時の流れは止まらないが、多くのPOGフリークとともにサラブレッドの物語を紡いでいければ、年を取る恐怖にも打ち勝つことができる? 14日発売の「ザッツPOG」がその助けとなれば幸いです。