ホッコータルマエが歴代最多タイのGI9勝目を挙げた、第38回帝王賞が行われた6月24日、水曜日。大井競馬場を2万3253人ものファンが訪れ、ナイター競馬を楽しんだ。スタンドの一部が工事中で入れなかったこともあって、かなりの「混雑感」だった。
その3日前、ユニコーンステークスが行われた21日、日曜日の東京競馬場の入場者数は3万103人だった。ちなみに、メインが米子ステークスだった阪神は1万5724人、函館スプリントステークスだった函館は1万215人。
平日の夜と日曜日の昼間、メインがGIとGIIIという違いはあっても、大井の入場人員レコードが7万7818人、東京が19万6517人というキャパシティの差を考えると、今年の帝王賞は多くの客を集めた、と見ていいだろう。
――やはり、ホッコータルマエのようなスターホースは客を呼べるんだな。
そんなことを考えながら、翌日、木曜日の『スポーツ報知』を読んでいた。我が軍(読売巨人軍)が横浜に連敗して首位陥落となった記事を見ないようにしながら、もう一度、地方競馬の成績などが記された面を読んで「え?」と思った。
帝王賞と同じ日に開催があった園田競馬場の入場者数は2605人、名古屋競馬場は1405人。
――へえ、そんなもんか。
と、さらに上に目線を滑らせ、門別競馬場のそれを見ると497人だった。
ホッカイドウ競馬というと、2年連続黒字となって累積赤字を解消した――というニュースが報じられたばかりで、「伸びている」という印象を受けていたので、意外だった、というのを通り越して、驚いた。
売上げがアップしたといっても、7割はネット利用によるものだというから、仕方がないのかもしれないが、それにしても、497人とは。私が気づかなかっただけで、もっと少ない日もあるのだろう。なお、翌日、木曜日は664人だった。
門別競馬場で働く調教師、騎手、厩務員などが300人ほどというから、店員と客の人数にそれほど差のないレストランのようなもの……とまでは行かないにしても、やはり、寂しい。
ひとりの人間が直接コンタクトのある「知り合い」というのはだいたい300人ほど、という話を、以前、東大名誉教授の西垣通さんから聞いたことがある。
日高の人にとっては、門別競馬場に行くとだいたい知り合いばかり、という日もあるということか。
馬産地競馬ならではの現象と言えるのかもしれないが、たくさんの人が見ている前でこそ磨かれるものもある。
サッカーなどでときおり見られる無観客試合の虚しさは言わずもがなだろう。
もちろん例外もたくさんあるが、東西のトレセンでも、メインストリートに近い厩舎の成績がいい、と言われていたこともある。見られてこそ、プロなのだ。人の目というのは、エネルギーにもなるし、厳しいネガティブチェックでミスをいち早く見つけてくれるコーチにもなる。
競馬はやはり「すごく見に行きたいもの」で、競馬場は「すごく行きたい場所」であってほしい。ネット観戦とネットでの馬券購入は、何より先に来るものではなく、「競馬場に行けないから、その代わりの手段」であるのが理想だと思う。ネット販売が、売上げとしては競馬場を上回っていても、見る手段、買う手段としては競馬場が「主」で、ネットは「従」というのが望ましいのではないか。
私は、我が軍が勝つと舞い上がり、負けると何もする気がなくなるほど好きで、いつも東京ドームに行きたいと思っているのだが、だいたいテレビで我慢している。観戦の回数としてはテレビが圧倒的でも、やはりそれは「従」で、「主」は球場である。それが当たり前だと思っているのだが、競馬はオタク化しやすい要素が多いだけに主客転倒しやすいのかもしれない。
かつて、JRAで、売上げは伸びているのに入場人員が減少していた1980年代後半、競馬場に来て緑の芝を馬が走る美しいシーンを見てもらおう、という意味で、「GREEN SPIRIT,JRA」というコピーが使われたことがあった。
ダートだから「ブラウンスピリット」というのは安直かもしれないが、ここにしかない「馬産地スピリット」に惹かれて、たくさんの人が集まるといいと思う。
そのスピリットに触れるため、来月、門別競馬場を訪ねるつもりだ。