▲現役生活26年、内田博幸が語る自分自身と“騎手”という仕事
内田博幸――言わずと知れたトップジョッキーである。大井所属時代には圧倒的な力で地方のトップに君臨し、JRAに移籍してからも数々の大舞台で結果を出して来た。大きなケガから長いリハビリ生活を強いられた時期もあったが、デビューから26年が経った今でも常に上を目指している。騎手として、核になるものとは。その胸の内に迫る。
(取材・文:赤見千尋、写真:下野雄規、榎田ルミ、編集部)
何年やっても答えがないのが“騎手”
数々のGIや重賞を制して来た内田騎手。ここ最近では、平安Sでの勝利が印象深い。それまで中団や後方から競馬をすることが多かったインカンテーションで、なんとハナを切って逃げたのだ。
「その前にフェブラリーSに乗せてもらって(2着)、相当な能力があるなと思っていました。平安Sではハナに行く気はなかったけど、前走がマイルだった分、前半からスピードに乗っていたし、周りも主張して行かなかったんです。中途半端よりは行かせた方がいいかなと思って、ハナに行く形になりました」
結果的に後ろの馬たちが道中で脚を使わされる展開となり、インカンテーションは見事逃げ切って見せた。スタートした瞬間の内田騎手の判断が、功を奏したのだ。
大舞台で意表を突いたような競馬をするのは、これが初めてではない。昨年のヴィクトリアマイルでは、一年間低迷していたヴィルシーナで、アッと言わせる逃げ切り勝ち。11番人気の低評価を覆し、見事2連覇を達成した。
大きな舞台であればあるほど、それまでのセオリーや脚質を転換することは難しいように思う。勝てば称賛されるが、負けた時のバッシングもまた強いからである。
「そういうのは気にしていられないです。全部のレースを勝つことはできないし、バッシングを浴びないなんて無理な職業ですから。レースの中では、展開次第で一瞬で変えなきゃいけない時もあります。平安Sの時は、一瞬の間があったから行くしかないなと思ったし、もしもこれでタレてしまったら自分の責任、自分の判断が悪かったので、関係者やファンの方に謝るしかない。
でも自分の中ではそれで負けても後悔はないです。自分がこうだと思ったことをやって負けたなら、バッシングを浴びたり乗り替わりになったとしても恥ずかしくはないですね。
ただ、一か八かで騎乗しているわけじゃないです。