398キロで新馬勝ちアドマイヤリード筆頭に小型馬大活躍の予感/吉田竜作マル秘週報
◆松田博調教師「数字ほど小さくは見えないけどな。身のこなしだけでなく、やはりエンジンがいい」
血統に詳しい方ならご存じだろうが、現在走っているサラブレッドのルーツをたどると、ダーレーアラビアン、ゴドルフィンアラビアン、バイアリータークのいずれかにたどり着く。“3大始祖”といわれるが、この3頭がサラブレッドという品種だったわけではない。アラブ種、英国の在来種など、現在のサラブレッドより、やや小ぶりな馬をもとに品種改良されていったのだ。
となると、18世紀初頭のサラブレッドは現在と比べると、やや小さかったと推察できる。そこから各地に散らばったサラブレッドたちは様々な変化を遂げていくが、すべてに共通するのはサイズ自体が大きくなっていったことだろう。
日本でも、その傾向は“顕著だった”。定年間近のベテランホースマン・松田博調教師は「オレの現役騎手時代などは500キロもあれば巨漢の部類。全体的に今よりは小さかった」と証言する。
日本国内のサラブレッドの大型化。ハッキリとした契機は分からないが、日本経済の成長とは無縁ではあるまい。社台グループを中心に、海外などから積極的に種牡馬、繁殖牝馬を導入して血の改良を推し進めたのはもちろん、栄養状況、調教施設も飛躍的に充実した。子供たちの平均身長が戦後から右肩上がりに伸びたのと同じ理由で、サラブレッドも大型化していったのは間違いない。
しかし、サラブレッドは改良されると同時に淘汰を繰り返してきた歴史がある。その国の環境に順応できない血統は、いずれ廃れ、埋もれていく。
サラブレッドを淘汰する環境の最たるものが「馬場」だ。ダート競馬が中心の米国では現在でも大型馬が活躍。デビューから19連勝(GI13勝)の輝かしい記録を打ち立てた名牝ゼニヤッタも、その例に漏れず550キロを超すような巨漢だった。現在の日本でも550キロを超えるような馬となるとダート志向が強くなるが、裏を返せばメーンストリームの芝では思うような活躍ができていないことになる。芝コースは年々改良が進み、クッションを保ちつつも「高速化」が進んでいる。単純に動かすべきものが重いと軽いスピードには対応できないのだろう。
となれば、現在のステイゴールド、ディープインパクトの産駒が活躍する状況は必然。どちらもコンパクトな産駒が多く、その軽快さや器用さ、サイズに見合わないエンジンを武器に、毎年のようにGIを勝ってきた。車でも近年は「ダウンサイジング」が叫ばれているが、日本では、すでにサラブレッドのダウンサイジングが進行中と言えるのかも。
そのダウンサイジングの“申し子”とも言うべき馬が、この中京開催で出現した。11日の中京芝1600メートル新馬戦は素質馬がズラリと顔を揃え、戦前から「伝説の新馬戦候補」との声まで出ていたが、これを制したのは398キロの小兵アドマイヤリード(牝=父ステイゴールド、母ベルアリュールII・松田博)だった。一般的に「直線に坂があって、力がいる」とされる中京の芝では、こうした小柄な馬が勝ち上がるケースは、そう多くない。しかもアドマイヤリードは、より力のいる稍重馬場で牡馬のクラシック候補をなで斬りにしてしまったのだ。
「数字ほど小さくは見えないけどな。身のこなしだけでなく、やはりエンジンがいい。牡馬と同じ斤量を背負って、あの馬場で勝てたのは大きいよな。これから馬体も少しずつ大きくなっていくだろうし、420キロくらいにでもなってくれれば言うことない」とは松田博調教師。
ちなみに松田博厩舎にはハープスターの半妹にあたるステイゴールド産駒リュラ(母ヒストリックスター)もスタンバイ。「430キロくらいだが、見ていて安定感があるし、細い感じはしない。走ると思う」とトレーナーは、こちらにも高い評価を与える。
この2頭を筆頭としたステイゴールド、そしてディープインパクトの産駒の今後の活躍次第では、2015年は“ダウンサイジング元年”となるのではないか。