レースぶりとレース後コメントを中心に振り返る
8月29、30日、リニューアルしたワールドオールスタージョッキーズが札幌競馬場で行われた。地方の騎手にはスーパージョッキーズトライアルでの出場権争いもあり、いまやファンや関係者にとっても一大イベントとなっている。さらにご存知のとおり、今年から地方騎手が2名出場できるようになったことでも、注目度の高いシリーズとなった。地方から出場した2人は残念ながら、特に藤田弘治騎手は惜しくも表彰台に上がれなかったが、レースぶりとレース後のコメントを中心に振り返ってみたい。
第1戦、いきなり藤田騎手が驚かせてくれた。好スタートをきって先行するかに思えたが、徐々に位置取りを下げて2周目3コーナー手前では後方2番手という場面があった。
「前の方で競馬をしてくれと言われていたんですけど、外から来る馬が速いと思ってじっとしていました。動けなくなったのもあるんですけど、そのまま内にいるしかないなと思いました」
直線で抜け出したのは、WASJを含めて土日で計7勝と、この週末の主役となったモレイラ騎手だったが、直線で外に持ち出した藤田騎手が見事にゴール前で差し切った。
「(4コーナーでは)内からスッと抜けられてラッキーでした。ゴーサイン出したらすごい反応してくれたんで、行けっ、と思いました」
こうした騎手交流戦では、互いを意識するあまり、超一流騎手同士といえどもペースが速くなることも珍しくない。第1戦は2600mの長丁場。外から行く馬を行かせて、慌てず内でじっとしていたことが、メンバー中最速の上り3F36秒9という末脚を引き出す結果となった。
WASJ第1戦、藤田弘治騎手は8番人気のジューヴルエールで勝利
それにしてもこのシリーズに出場する地方騎手でたびたび感心させられるのが、普段とはまったく違う、ほとんど経験したことのない環境にもかかわらず、ときにあっさりと勝ってしまうこと(乗っている本人にしてみればあっさりではないのかもしれないが)。2012年に出場した佐賀の山口勲騎手も、東京競馬場での騎乗はその日が初めてにもかかわらず、第2戦で勝ったときにも思ったことだ。藤田騎手の中央芝の経験は、2013年8月の新潟・朱鷺Sに金沢の馬で騎乗(12着)したことがあるだけ。今回のWASJ第1戦が、それ以来、2度目の中央での騎乗だった。
藤田騎手は総合ポイントで3位の戸崎圭太騎手とわずか1ポイント差での4位ということでは惜しかった。第4戦で10着以内なら表彰台だったのだが。その第4戦で騎乗した馬は気性的に難しいところがあるらしく、馬場入場後も厩務員がスタート地点までついて行っていた。逃げるしか手はなく、たしかにこれまでも逃げ切るか、もしくは馬群に沈むかという極端な成績。結果は後者で、残念ながら最下位だった。こうした騎手対抗戦では、ポイント的に微妙なところでの結果は運によるところも大きいが、モレイラ騎手の活躍だけは、運ではない実力と思わせる凄みがあった。
もうひとり、北海道代表の岩橋勇二騎手は、第3戦の8着が最高という成績。むしろ岩橋騎手のほうが札幌競馬場は何度も騎乗経験があり、特に前週のクローバー賞では道営のリッジマンで惜しくもハナ差2着(もう1頭の2着馬とは同着)と存在感を示していただけに、総合で最下位は残念な結果だった。
WASJ第1戦、岩橋勇二騎手はモンテエクリプスに騎乗して9着
「第3戦はいい馬に乗せてもらったのに、前掻きしていて出負けしてしまいました。2日間で、自分の技術がどれだけか、課題が見えた。芝だとギアの入り方が違うとか、出したいと思うと行きすぎちゃうとか、芝は難しいと感じました」
思ったようなレースができなかったことで、自身の課題が確認できたという。9月5日の札幌2歳Sには、クローバー賞で2着だったリッジマンで再び中央挑戦の予定で、WASJで結果を残せなかったぶん、北海道に岩橋ありをアピールしてほしい。
ところで第1戦の藤田騎手の勝利では、「おおっ!」と思ったことがあった。ゴールのあと、「金沢の藤田弘治ここにあり!!」というような実況があったこと(一字一句まで正確ではないかもしれない)。翌日、実況していたラジオ日経の小林雅巳アナウンサーに会ったので、そのことを聞いてみたところ、「地方の騎手が勝ったら、そう言おうと考えていた」とのこと。地方競馬ファンのみならず、地方の騎手を応援している関係者は少なくない。ちなみに、JRAのサイトにアップされているレース映像では、その前のところまでで実況がカットされてしまって聞くことができないのがなんとも残念なのだが。