逃げ切りがまったくみられなかった週
この週、芝のレース(平地、Bコース)は計12鞍行われたが、開幕週にもかかわらず「逃げ切り勝ち」は1頭も出現しなかった。これは、2014年の芝コースの路盤の改修以降に顕著に見られる傾向で、開催前に芝のクッション性確保のためのエアレーション作業が実施される。バーチドレンによる芝コースの穴あけ作業である。今回の実施もJRAホームページの馬場情報で発表されている。開幕週の良馬場だから、けっして時計は遅くはないものの、クッション性の高められた芝は、弾むようなフットワークのバネで加速し、軽快なスピードでがまんできる馬場ではない。
まして、芝の内側半分は傷んだ芝を張り替えたところに、バーチドレンを入れてのエアレーション作業だから、見た目は緑の絨毯(じゅうたん)のような芝は、その通りソフトな芝コンディションであり、外側よりさらにパンチがないとこなせないタフな芝コンディションになっているのではないかと推測される。
京成杯AHのレース全体は「47秒0-46秒3」=1分33秒3。落ち着いた流れで、前半1000m通過は「58秒7」のスローだった。2013年までの芝コンディションなら、このペースだと上がり「33秒台前半」で伸びる馬が続出し、中には上がり33秒を切ろうかという鋭い切れを爆発させる馬さえいたかもしれない。
しかし、このペースながらレース上がりは「34秒6」にとどまり、実力のわりにちょっとハンデが厳しいかと思えた中京記念の
スマートオリオン57.5キロは、寄られる不利も重なって「15着」に失速。関屋記念の
レッドアリオン58キロは、なんとしんがり「16着」に沈んだ。
勝った13番人気の7歳
フラアンジェリコ(父ネオユニヴァース)は、4コーナーにさしかかるまでほとんど最後方を追走。外に回ってから馬群を割って直線一気を決めたが、同馬の上がり3ハロンは、メンバー中の最速とはいえ「33秒6」にすぎない。
ふつうのオープン馬ならだれでも楽々と乗り切れるようなペースであり、勝ちタイムは1分33秒3止まり(これより遅い持ちタイムの馬は1600m経験の浅い3歳馬を中心に3頭しかいなかった)。ハンデ戦とはいえ、どの伏兵も乗り切って不思議ない1600mの内容だから、「ハナ、ハナ、アタマ、ハナ、クビ、アタマ…」。1着から7着にとどまった1番人気の
アルビアーノまでわずか「0秒1」差。しんがりに沈んだレッドアリオンとて、0秒9しか負けていない。
坂を上がって外から突っ込んだグループが追いつき、ゴール前は6-7頭がほとんど横一線。みんな自分の注目していた馬が何着くらいかは分かっても、内から抜けだした
エキストラエンド(父ディープインパクト)に並びかけたのはどの馬とどの馬なのか、瞬時にはだれも良く分からないほどの大接戦が展開された。
馬の脚部にかかる負担を軽減することを主目的に、より安全な馬場を目ざす芝コンディションの作り方・整備の方向は、ちょっと短絡な視点だが、マイル戦で「1分33秒台前半」のどの馬でも乗り切れそうな芝コンディションのレースを終えた時点では、例をみないほどの大接戦がもたらされる可能性が高くなることにつながった、と考えることもできる。芝の整備方の変更によって、興奮の接戦がもたらされたのは確かである。
ほかに今回の京成杯AHでわかったことは、ほとんどしんがりにいて、直線だけの勝負に徹することになったフラアンジェリコ、
ショウナンアチーヴ、
シャイニープリンスなどの差し=追い込み策は、今回の中山の移動柵の設置(Bコース)も関係するが、結果、上位6着までに入ったからとりあえず大正解の作戦の1つである。
この週は、逃げ切りがまったくみられなかった。内側が芝の張り替え部分に相当することも大きな要因と思えるが、2週目からの中山は、一気に「スローペース」が増えそうである。
馬にとってより安全なクッッション性の高い芝は、過度にスピードが上がらない結果、馬群が凝縮した混戦、接戦の競り合いが増える可能性が高まった。ジョッキーにとって追う技術、ペース判断、スペースの探し方など技量の発揮できるレースが多くなると同時に、京成杯AHの激戦をみていると、逆に、騎手にとっては危険なシーンが増えることも心配される。人気のスマートオリオン(内田博幸騎手)あたりは、寄られて狭くなり反撃をあきらめていた。
快速重賞とされた秋の京成杯AHを、7歳のベテランホースが制したのは初めて。また、6歳以上のベテランホースの「1-2」着で決着したのは、1996年の「6歳-6歳」馬の組み合わせ以来、史上2度目のことだった。
たまたま、今年の組み合せはこういう能力接近の力関係だったともいえるが、今後もこの芝コンディションが続くと、展開推理や、こういう芝に合う馬など、もっと難しいレースが増える可能性がある。偶然だろうが、Win5の的中は1票だった。
7歳フラアンジェリコ、6歳エキストラエンドの好走は素晴らしかったが、次につづくだろうという視点では、3歳
ヤングマンパワー(父スニッツェル)、
グランシルク(父ステイゴールド)の好走は明るい。ともにタフな一面がある。ただ、人気のアルビアーノ(父ハーランズホリディ)は、実際にはこういう芝は大歓迎と思えるが、一本調子の死角があるから、NHKマイルCのような東京か、中山ならフラワーCが示すように1800-2000mの平均ペース向きだろう。最後に鋭さの求められる中山1600mは有利ではなかった。
15着スマートオリオン、16着レッドアリオンが、前者は「1,11,15」着、後者は「8,1,16」着で、ともにサマーマイルシリーズのチャンピオンとなった。だが、3戦だけではシリーズになりようがなく、こういう成績でのチャンピオンは、受賞する側はそれは光栄だろうが、さすがに周囲はシラけ、称える拍手は聞こえなかった。改革した方がいいと思える。