角居勝彦調教師(写真は2014年ジャパンカップ後にC.スミヨン騎手と記念撮影、撮影:下野 雄規)
角居勝彦調教師「身近に馬がいる風景を作っていきたいです。馬のいる場所に人々が集うという形が理想です」
角居勝彦調教師が中心となって始まったサンクスホースデイズ。“馬に感謝する日々”と名付けられたそのイベントは、競馬・乗馬・障がい者乗馬・ホースセラピーなどなど、日本の馬文化が一堂に介し、どんな人でも馬とともに楽しむことができるイベントです。これまで、名古屋競馬場や高知競馬場などで開催されて来ましたが、9月23日(水)には角居先生の地元金沢競馬場で初開催。そこで今回は、角居先生にサンクスホースデイズへの想いをお聞きしました。
赤見:サンクスホースデイズを始められたキッカケはなんですか?
角居:僕は一般社会からこの世界に入ったんですが、初めて馬が骨折して命を落とした時には本当にショックでした。この世界に留まるのならば、馬たちを守る努力をしなきゃいけないと強く思ってきました。競走馬はレースで勝つことが守ることに繋がるわけですが、それでもケガをしてしまったり、能力が足りなかったりと、どうしてもこぼれてしまう馬がいるんです。厩務員の頃から、「勝てなかった馬はどうなってしまうんだろう…」と思っていましたが、ようやくリーディングに近い場所に立てるようになって、馬たちのために何かしてあげられるんじゃないかと。それで、競馬以外の馬文化に目を向けるようになって、障がい者乗馬の存在を知ったんです。障がい者乗馬やホースセラピーの馬たちは、速く走ることを求められない。動きが緩慢であればあるほど、大人しければ大人しいほど“優秀な馬”という風になりますから、競馬で結果がでなかった馬にこそ居場所があるんじゃないかと考えました。
赤見:障がい者乗馬というのは、心や身体に障がいを持った方が乗馬を通して楽しみやリハビリ効果を得ることですけれども、日本ではまだ認知度が低いですよね。
角居:かなり低いですね。僕自身も詳しく知らなかったですし、まずは調べることから始めました。当時、元調教助手だった福留健一くんが、大きなケガから社会復帰をするタイミングだったので、「一緒にやらないか」と声を掛けて。そこから2人で話し合ったり調べたりして、まずはみなさんに知っていただきたいということで、告知効果のあるイベントをしようと。それがサンクスの始まりです。
今回のイベントは角居勝彦調教師の地元、金沢競馬場で開催される(写真は2014年9月23日名古屋競馬場で開催されたイベント風景)
赤見:ゼロからイベントを立ち上げるというのは、難しい部分も多かったのではないですか?
角居:その通りですね。今も試行錯誤しながら進んでいます。まず最初の壁は、日本の馬文化は横の繋がりがないということ。競馬と乗馬でさえ繋がっていないんです。乗馬の中にもブリティッシュやウエスタンという違いがありますし。そこを1つ1つ繋げて行くことが難しかったです。でも、たくさんの方に共感していただいて、助けていただきました。競馬の世界だけでは出会えなかった人脈も広がりましたし、本当に感謝しています。
赤見:サンクスを始めて良かったことはありますか?
角居:やっぱり子供たちの笑顔ですね。馬に乗ったり触ったりするだけで、みんな笑顔になるんです。それに、障がいを持ったお子さんたちも、本当に楽しそうに馬と遊ぶんですよ。その姿を見ていた親御さんが涙を流されていたこともありました。
赤見:わたしも障がい者乗馬の現場を見たことがあるのですが、自閉症のお子さんが馬を見ると満面の笑顔になっていて、親御さんもとても喜んでいて。馬たちには、すごいパワーがあるんだなと感じました。
角居:馬たちには、僕の知らないパワーや能力がもっとあるのかもしれません。競走馬は相手を負かすことに特化したスピードばかりを考えているけれど、それだけじゃない馬の魅力、温かさ、優しさ、表現力、そういう部分をもっと知りたいです。サンクスでは、まだ知りえていない馬のパワーを勉強させてもらっています。
赤見:サンクスホースデイズの名前の由来は何ですか?
角居:主催者側が喜んでやってないと意味がないじゃないですか。障がい者乗馬もそうですけど、馬を曳く人が喜んでやってないと、曳いてやってんだって思いながらだと馬にも伝わっちゃうし、障がいを持っている人にも伝わってしまう。曳くことが楽しいっていう姿勢が大事だと思うので、“馬に感謝する日々”と名付けました。
赤見:今後目指す形というのは?
角居:より身近なところに馬がいる風景を作っていきたいです。障がい者の方だけに限定するのではなく、馬のいる場所に人々が集うという形が理想です。子供であれ、主婦であれ、障がい者であれ、健常者であれ、みんなで集うことが出来る場所。馬を通すことで、それが実現できるんじゃないかと思います。馬がいると、誰もが「あ! 馬がいる」ってなりますから。
そうなるためには、まずは馬サークルの形が変わって行かないと。中央競馬だから、地方競馬だから、乗馬だから、ウエスタンだから、障がい者乗馬だから、というのがなくなることが理想です。馬サークルだけのコミュニティでもちゃんと出来てないのに、一般社会の垣根を取り払うのは難しいですから。僕らサークルの人間が一つにまとまらないと、そのステージには上がっていけないと思います。
「馬の魅力、温かさ、優しさ、表現力、そういう部分をもっと知りたいです」と語る角居勝彦調教師(写真は2014年取材時のもの)
赤見:競馬サークル、馬サークルにとっても1つに繋がる大きなチャンスですね。
角居:この産業も新しいことがなければ発展していかないですし、最後の最後まで馬たちの面倒を見ることが、より発展する方法だと思っています。先日新潟競馬場で引退馬の写真展がありましたが(
詳細はコラム「第二のストーリー」にて)、サラブレッドのセカンドキャリアを考えることは大事なことだと思います。今後も競馬サークルだけでなく、乗馬などの馬文化や行政とのパイプも強くしていって、馬たちがいる風景が身近になるようにしていきたいです。
赤見:では、23日(水)サンクスホースデイズin金沢に向けて意気込みをお願いします。
角居:僕の地元である金沢で開催できるということで、故郷に錦を飾るじゃないですが、とても光栄です。今回は競馬開催日ではないので、サンクスをキッカケに初めて競馬場に来てくれる方もいらっしゃると思います。金沢は歴史のある街ですから、福祉なども文化的な事業にはとても前向きなんですが、競馬はギャンブル色が強いという印象もあって、なかなか接する機会がない方も多いです。これから、高齢化社会、福祉の問題、子供たちへの教育なども含めて、馬を通して金沢競馬場が新しい文化を発信して行ける場であることを知ってもらえるチャンスなんじゃないかと思います。地域にとっても行政にとっても競馬場にとってもプラスですから、ぜひ23日(水)はたくさんの方にお越しいただいて、馬たちと触れ合っていただきたいです!
2015年9月23日(祝水)に行われる「サンクスホースデイズin金沢」イベントスケジュールについて(※金沢競馬のホームページに移動します)