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パワーアップを感じさせたベストウォーリア/南部杯

  • 2015年10月13日(火) 18時00分

(撮影:高橋 正和)



勝ちタイムはやや物足りないかとも思ってしまうが決してレベルが低いレースではなかった

 スタートしてからの向正面の長い直線で前3頭が競り合い、ビュンビュン飛ばしていって力尽きた者から順に脱落していくという、まるでアメリカのダート戦を見ているかのようだった。

 内から順に、タガノトネール、エーシンビートロン、ポアゾンブラックが競り合ってというペースは、レースの中間地点800mまでのラップが45秒7。時計のかかる馬場を考えれば、超といってもいいハイペース。そして後半800mが51秒1だから最後はバタバタだ。断然人気に支持されたベストウォーリアは、競り合った3頭をすぐ前に見る位置を追走。4コーナーでは早くも前をとらえにかかって直線で抜け出した。抜け出したというより、先行勢が力尽きたところで先頭に立ち、最後は一杯になりながらなんとかしのぎ切ったというレースだった。

 勝ちタイムの1分36秒8は、過去5年が1分34〜35秒台の決着だったことを考えればやや物足りないかとも思ってしまうが、盛岡競馬場のダートコースは今年6月に砂の入れ替えが行われ、レコードが連発した昨年のJBC(レディスクラシックとクラシック)の頃よりも1〜2秒もタイムがかかるようになっている。それを考えれば、決してレベルが低いレースではなかった。

 前走59kgを背負って好位から楽々と抜け出したプロキオンS、そして今回のベストウォーリアのレースぶりは、昨年よりパワーアップを感じさせるもの。それにしてもこの南部杯は特定の馬の活躍が目立つレースで、2004年のユートピア以降、2010年のオーロマイスターを除いて、勝ち馬はいずれも2連覇以上の成績を残している。有力馬には秋初戦となる休み明けの馬が多いということもあるのだろうが、得意・不得意がはっきりと分かれるコースなのかもしれない。

 昨年は南部杯のあと、2000mのJBCクラシック(5着)、1800mのチャンピオンズC(11着)と駒を進めたベストウォーリアだが、昨年の南部杯のときから石坂調教師が心配していたように、やはり1800m以上の距離は長かった。今年は1200m(大井)のJBCスプリントに出走予定とのこと。しかし新馬戦以来となる1200m戦にも不安はある。オープン特別あたりのメンバーであればともかく、ダート短距離のスペシャリストが集結する1200m戦の流れに対応できるかどうか。

 ちょっと話は逸れるが、ダートの短距離では日本で唯一のGI/JpnIとなっているJBCスプリントは、開催場によって、1000m、1200m、1400mと距離が変わるので、その唯一のタイトルを穫れるかどうかは巡り合わせという運にも左右される。たとえば一昨年のJBCスプリント(金沢1400m)を制したエスポワールシチーなどは、その年のJBCスプリントが1200mならおそらくクラシックのほうに出走していたと思われ、もしかして獲得したGI/JpnIのタイトルはひとつ少なかったかもしれない。まだ今年5歳のベストウォーリアにとっては、JBCスプリントが1400mで行われる来年の川崎にチャンスありといえそうだ。

 前で競り合ったうちの1頭、タガノトネールが2馬身差で2着に粘った。2013年7月にダート1700m戦に出走しているが、以降は1400m以下のみを使われてきた。それに加えてJpnIでは経験不足もあって4番人気という評価だったが、一か八かでハナを主張し、最内枠ゆえラチ沿いぴったりのコースロスのないところを通れたというのは大きかったのではないか。3〜4コーナーだけでなく、盛岡1600mでは引き込み線から本走路に入るところも少しカーブしていて、ギリギリの勝負ゆえそこでも外の馬より少し楽ができた。今回の2着は、今後に向けて大きな経験となったことだろう。

 ゴール前、惜しくもタガノトネールをハナ差とらえきれず3着だったのがワンダーアキュート。前3頭からは3、4馬身ほど離れた6番手を追走し、3コーナーを回ったところからはすでにムチが入っていた。それでもメンバー中2位の上り38秒6で追い込んだ。必ずしもこの馬には合わない流れの中で底力を発揮。9歳だがまだまだダートGI/JpnI戦線でも上位を賑わしそうだ。

 地方最先着は5着のポアゾンブラック。3頭の先行争いで一歩も引かなかったところでは、さすがに北海道スプリントC、クラスターCという1200mのJpnIIIで2着というスピードを見せたが、直線を向いてさすがに苦しくなった。マイペースで逃げられた昨年とは違う厳しい流れだった。地方に在籍していれば1200〜1400mのダートグレードは1年を通して出走できるレースが豊富で、遠征というリスクはあるものの、どこかでチャンスはあるだろう。

 3番人気と期待されたハッピースプリントは6着。スタートで大きく躓いて、そのあとはハイペースに追走一杯。かしわ記念のようにコーナーを4つ回ってどこかで息が入る流れならマイル戦でも対応できるが、今回のような流れになると厳しい。今年のかしわ記念や帝王賞のレースぶりなら、どこかでGI/JpnIのチャンスはあると思うのだが。

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1964年生まれ。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。ドバイ、ブリーダーズC、シンガポール、香港などの国際レースにも毎年足を運ぶ。

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