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今年の1番馬レッドアヴァンセに 2年目の松若を乗せる音無師の賭け/吉田竜作マル秘週報

  • 2015年11月18日(水) 18時00分


レッドアヴァンセは音無調教師が「今年の一番馬かも」と言い続けてきた逸材

 以前、野中調教師がこんなことを言っていた。

「どうして競馬が世界中で支持されていると思う? アラブの富豪のようにお金に不自由しないような人間がなぜ躍起になって投資すると思う? うまく表現するのは難しいけど、それだけ人を引き付ける魅力があるからなんだよ」

 かつて英国首相のチャーチルが「ダービー馬のオーナーになることは一国の宰相になるより難しい」と言ってみたり、日本では上田清次郎氏が「どうしてもダービーを勝ちたいんだ」とレース直前にダイコーターをトレードで手にしたり…。記者のような一般人からすれば「地位も名誉もある人間がどうしてそこまで?」と思ってしまうが、とにかく切り口が豊富で懐が深いのが競馬の最大の特徴であり、大きな強みでもあるのだろう。

 一ファンがサラブレッドのオーナーになったつもりで見守るのが、当コラムの表題にもあるPOG(ペーパーオーナーゲーム)。実際の馬主の気分を味わえるゲームだが、本物を模しただけにこれもまた奥が深い。

 最初のうちは「誰が勝った、誰が負けた」で騒ぐものだが、このPOGの魅力について考える時、人は何かの成長を見守るのが本質的に好きなのでは、とよく考えさせられる。アイドルグループの“推しメン”などもそうだろうし、大ヒットした競馬シミュレーションゲームも同様だ。自らが指名した馬が多くの人の手を経て、愛情を持って育まれ、そしてデビューする…。生産者をはじめとする競馬関係者が抱く感慨を競馬ファンも味わえるのが、競馬シミュレーション、そしてPOGの醍醐味なのではないか。

 土曜(21日)の京都芝内1600メートル新馬戦でリディル、クラレント、レッドアリオンといった活躍馬の半妹にあたるレッドアヴァンセ(父ディープインパクト、母エリモピクシー・音無)がデビューする。かねて「今年の一番馬かも」と音無調教師が言い続けてきた逸材だ。このレベルの馬になると、最近は外国人騎手が指名されるケースが圧倒的に多いのだが、音無調教師が手綱を委ねるのは愛弟子の松若風馬。デビュー2年目、弱冠20歳の青年にこの重責を託す。

「新馬戦を勝つようなら暮れのGIに行きたい。ルメールという声もあったんだけど、彼には阪神JFでもう乗る馬がいるだろうし、そうなると、本番で乗り替わりとなってしまう。それならウチの風馬を続けて乗せたほうがいいでしょ」と音無師。サラッと言ってのけたが、オーナーサイドへの打診や関係者との調整に“師匠”が骨を折ったのは想像に難くない。

 ご存じの通り、最近は所属騎手にチャンスを与える調教師はそう多いとは言えない。「トップジョッキーを乗せられる」=「優秀な厩舎」という認識が馬主サイドにも確立されてしまい、騎手起用については非情にならなければ厩舎経営が成り立たないからだ。そんな状況の中で師匠はチャンスを与え続け、松若もそれに応えてきた。今回のチャレンジも松若への期待、愛情、そして叱咤が込められている。

「とにかくすごい能力を感じる。先週はゲートも通したが、反応は良かったし、何の問題もなさそうだね。ただウチのレッドラウダもそうだけど、風馬は(馬を)イケイケにしちゃうところがある。騎手としてキャリアが浅いからと甘えてはダメ。教えて育てていく乗り方をしていかないと。長い目で見れば差す競馬をしていくのが常道。騎手としてもそういう競馬をしていかないと、生き残っていけなくなる」

 成長物語はサラブレッドだけのものではなく、ジョッキーもまた同じ。最近では忘れられがちだが、「騎手と馬とがともに成長していく姿」はより大きな感動を呼ぶ。

「どう勝つかが大事」ということは「敗れれば即乗り替わり」。それは松若が一番よくわかっていることだろう。松若とレッドアヴァンセの未来は? このコンビが出走する新馬戦は競馬の魅力が凝縮されたレースになりそうだ。

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