復活するべくして復活 松田国正真正銘の厩舎力/吉田竜作マル秘週報
絶えず研究と研さんを重ねて調教にも工夫を加え続けてきた松田国厩舎
JRAの裁決委員の仕事を見る機会があった。一頭一頭の馬の癖までもデータベース化し、多様な角度に設置されたカメラから配信される映像をチェック。まさに目を皿のようにして各馬の走りをチェックしている。それで飯を食っているのだから当然とはいえ、やはり責任を伴う“主催者”。ピリピリとした緊張感が伝わってきた。そんな裁決委員と話をさせてもらった中で最も印象に残ったのは、レースの馬場入りに関することだった。
「馬場入りの時は本来、誘導馬について行き、ゴール前(近辺)まで並脚で歩いて、それから返し馬に移らなくてはならないのですが…。最近は馬場に入って、すぐに返し馬に行ってしまう。それだけではなく、“先入れ”で誘導馬よりも前に馬場に出るケースも増えてしまって…」
この一連の流れは定義されているものだが、現状は「馬の状態や危険防止」を優先させて、先入れや入場直後の返し馬を許容している。もちろん、JRAも事あるごとに指導しているそうだが、騎手に言わせれば「調教師の指示だから」となり、調教師には「今の牧場から帰厩して10日で競馬(に出走することもある)という状況では、並脚から教えるなんてできない」と言い返されるのだとか。馬術にルーツを求める競馬で、並脚をファンに披露するのは、馬を管理する厩舎や手綱を取る騎手にとって日頃の調教の成果を見せる場面だが…。
何よりPOG好きの記者が気になったのは「帰厩して10日で競馬」というフレーズ。馬房を効率良く使い、出走回数を上げることが一番の成績向上策になっている現在の厩舎事情では、「(トレセン)近郊の牧場で調教してもらって、帰ってからは調教1本で競馬」という出走パターンが、もはや常態化している。
昔から言われてきたのは「若駒の出走には時間がかかる」。入厩してからゲート試験を受けられる態勢になるまでには時間を要するし、競馬に向けて体力をつけていくという点でも、古馬とは比べものにならないほどの労力を要した。
しかし、最近は「ゲート試験合格」→「放牧」→「帰厩して10日で出走」というケースも少なくない。手間がかかる若駒の在厩期間を短縮させれば、その分だけ厩舎は他馬に馬房を振り分け、出走回数を増やすことができる。このやりくりをいかにスムーズに、また、それを可能にするツテがあるかどうかが、厩舎成績を大きく左右するといっても過言ではない。
ただ、このシステムを突き進めていくと、「なら“厩舎”は何をするところ?」という話にもなってくる。もちろん、馬の入退厩、レース出走への手続きは厩舎の仕事だが、根本の馬に直接関わる「調教」は直前の追い切りぐらいになってしまう。ちなみに最近はレース後も直接牧場に出ることが増え、厩舎で馬をチェックすることすら少なくなったとか。公正さを売りにしているJRAにとって、理想はすべてを管理下に置き、目を光らせる態勢。そういう観点からも、何らかの対策を取る時期にきているのかもしれない。
そうした“風潮”にあらがう姿勢を見せているのが松田国厩舎。名牝ダイワスカーレットの娘ダイワウィズミーを約半年かけて厩舎で調整してデビューさせたように、管理馬にかける愛情と情熱は並々ならぬものがある。臥薪嘗胆の時もあったはずだが、絶えず研究と研さんを重ねて調教にも工夫を加え続けてきた。
目を引くのが追い切り後の調教メニューの立て方。特に翌日は引き運動で済ますところも多いが、松田国厩舎は軽めのメニューとはいえ、馬場に出て体を動かすことが多いのだ。
松田国調教師いわく、「積極的に馬を動かして疲労を取る」。これはアスリートでも実践というか、当然のようにしていること。ハードな調教メニューに加え、疲労回復手段にも独自のやり方を確立したことが、バティスティーニ(新馬→黄菊賞を連勝)、スマートオーディン(新馬1着→萩S2着→東スポ杯1着)といった2歳牡馬勢の快進撃を支えている。
土曜(28日)のGIII京都2歳S(京都芝内2000メートル)にも、松田国厩舎の期待の牡馬ロライマがエントリーしている。
「遅生まれ(5月22日)なのもあってレース間隔を意識的に取った。新馬戦の着差(アタマ)はわずかだったが、ノーステッキでのもの。ルメールも“瞬発力があって能力は高い”と言ってくれた」とトレーナー。正真正銘の“厩舎力”を持った松田国ブランドの精鋭たちは、来春のクラシックまで猛威を振るい続けるに違いない。