介護帰省でまた札幌に来ている。
せっかくクルマで1時間ちょっとのところにいるのだからと、12月4日、金曜日、社台スタリオンステーションにいるキズナに会ってきた。
スタッフに曳かれてきたキズナは、少し冬毛が出ているが、張りのある、ピッカピカの体をしていた。
10月10日にスタッドインしたときは497kgだったが、今は536kgだという。
社台スタリオンステーションに繋養されているキズナ。
私がこうしてキズナを間近で見るのは、5月3日の天皇賞・春以来だから7か月ぶりのことだ。いかにも「元競走馬」という雰囲気になっているかと思いきや、精悍な顔つきや力強い歩様は、私が知っている競走馬・キズナのままだった。
それは、ここ社台スタリオンステーションの「調整法」というか「体づくりのコンセプト」も関係しているようだ。事務局の徳武英介さんは言う。
「うちでは2月から種付けをするので、今のうちに体をつくっておくんです。種付けのときは立ち上がらないといけないし、どこかを痛めて種付け自体を嫌になったら困りますからね。スタッフは、馬を太らせず、筋肉をつけながら、それでいてやりすぎないよう、ジムに通わせるような感覚の調整に取り組んでいます」
毎朝8時ごろから午後2時ごろまで放牧地に出て、その間、調馬索(ちょうばさく)を使った運動などをする。試験種付けも無事済ませたという。
キズナが使っている放牧地は、かつてサンデーサイレンスが入っていたところだ。向かいにはメジロマックイーンがいた。今はそこにルーラーシップがいる。
ただ立っているだけでもキズナの全身から何か漲るものが伝わってくるようで、武豊騎手を背にダービーのゴールを駆け抜けたシーンや、凱旋門賞で夢を託したときの思いなどが蘇ってくる。
放牧地にいるキズナ。ちょっとした馬具もストレスになるからと頭絡をつけていないのも社台SS流。
「脚を故障していたので小さめの放牧地に入れたのですが、ビックリするぐらいのスピードで走っていることがあります」
キズナを見て徳武さんが微笑んだ。
「四角い放牧地なのですが、綺麗な円を描いて走っているので、見ていて怖い感じがまったくしないんです。ディープインパクトもそうですけど、運動神経のいい馬は、穴に脚を落としたり、転んだりしませんね」
母キャットクイルが20歳のときに産んだとは思えないバランスのよさがある。
「骨量が豊かで、体の大きさと脚の太さなどのバランスが素晴らしい。配合、お母さんの健康状態など、すべてが噛み合ってヴィンテージワインのようになった。まさに天からの授かりものだと思います」
そう話した徳武さんは、社台グループの会報「サラブレッド」12月号の巻頭に掲載されている、吉田照哉氏による「今月のプレゼンテーション」を見せてくれた。そこにはこう書かれている。
<……もうひとつ嬉しいご報告ができることになりました。一昨年のダービー馬キズナを社台スタリオンステーションに迎えられたことです。父ディープインパクト譲りの柔軟性はそのままに、ひと回りスケールアップさせた馬体は気品にあふれ、しかも世界的な牝系の出身、このような馬にはそう簡単にめぐり逢えるものではありません>
余勢の種付けは、受付を開始したら即日満口になった。
キズナの2016年シーズンの種付料は250万円。ディープインパクトの種付料は3000万円也。
放牧地のディープインパクト。馬体も動きもまだまだ若々しい。
オルフェーヴルも見せてもらった。ヤンチャぶりは相変わらずで、いつも撮影用に外に出ると、厩舎に戻りたがらないという。キズナは、いくら呼びかけても我関せずという感じで、なかなかこちらを見てくれないのだが、オルフェは黙っていても、
――あんた、誰だ?
という感じでジロリと目を向ける。
オルフェーヴル。2016年シーズンの種付料は600万円。
カッコいい馬たちの写真を並べたので、最後は可愛い馬たちの写真を。徳武さんが案内してくれた、ノーザンホースパークで行われている「HAPPYポニーショー」の様子だ。まず、芦毛(で、いいのかな)のセサミくん、つづいて脚の短さだけで笑いをとれるキンちゃんが登場し、いろいろな演技を見せてくれた。馬たちが絶妙のタイミングで頷いたり、トレーナーの指示どおりに動くのを見ると、
――馬ってこんなに芸ができるんだ。
と驚かされる。また、演技の構成がしっかり練られていて、ショーとしてのクオリティがとても高い。
HAPPYポニーショー。手前がキンちゃん、奥がセサミくん。
馬という生き物は、私たちに、いろいろな楽しみをプレゼントしてくれる。
馬っていいな、北海道っていいな、と心底思える時間だった。