(撮影:高橋 正和)
1コーナーで見せた鞍上のファインプレー
レースをつくったのは、地元船橋のノットオーソリティだった。前走JBCレディスクラシック(6着)では出遅れたものの、今回、他に行く可能性のある馬が隣のセイカフォルトゥナくらいしかいなかったため、引き続き鞍上となった高知の赤岡修次騎手は、可能性として逃げることも考えていたのだろう。互角のスタートで少し気合を入れると、すんなりと先頭に立った。
スタート後は中団だったディアマイダーリンが1コーナーを回るところで外から一気に先頭に迫ったが、さすがに横山典弘騎手だけに、先日のチャンピオンズCのようにレースを壊すようなことはしない。すぐに控えて2番手、そして3番手に人気のトロワボヌールで隊列が決まった。
刻んだペースが絶妙だった。普通なら1コーナーに入るまでの先行争いで2Fめのラップが上がるものだが、ノットオーソリティが先頭ですんなり決まったため、最初の2Fのラップは12秒1、12秒2というもの。3Fめからは綺麗に12秒台後半のラップが並ぶ淡々とした平均ペース。ゴール前の1Fだけは13秒2だが、結果的に前に行って最後まで止まらなかった3頭が追い比べとなっての決着だった。
最後に外から差し切ったディアマイダーリンは、流れが速くならないと見て1コーナーで先頭に並びかける位置まで進出した鞍上のファインプレーだろう。今回初ダートで、近2走がG1とはいえ2桁着順だったため中央勢ではもっとも人気がなかったが、菊澤調教師によると、入厩当初から芝よりダートのほうが合うようなフットワークをしていて、機会があればダートは使ってみたいと思っていたということだった。
トロワボヌールもゴール前でうまく内から伸びたが、ディアマイダーリンにクビ差及ばず。目標としていたJBCレディスクラシックを戦ったあとで、しかも1頭だけ抜けて重いハンデでは、最後の競り合いで屈したのもしかたない。
ノットオーソリティはマイペースの逃げに持ち込み、3コーナー過ぎでは2番手のディアマイダーリンに2馬身ほどの差をつけての単独先頭。このあたりでは、前日の再現があるのでは、と思わされた。「前日」とは、高知から遠征のサクラシャイニーが赤岡騎手で勝った総の国オープンのこと。逃げた馬が3コーナーで一杯になり、サクラシャイニーが単独先頭に立つと、2〜3馬身ほどの差で追ってきたのが1番人気のグランプリブラッド。ゴール前で迫られたものの、ハナ差でしのぎ切った。サクラシャイニーは休み明け、7番人気での勝利だった。さすがに今回は先着された2頭のほうが決め手が上だったが、それでもクビ+3/4馬身という接戦。赤岡騎手は悔しかっただろうが、前日の総の国オープンに続いての好騎乗といっていい。
今年、古馬(3歳以上)の牝馬ダートグレードでは地方勢が苦戦していて、ここまですべて3着以内を中央勢に独占されていたが、ノットオーソリティがようやく3着を確保。来年以降に期待が持てるレースぶりだった。
最後方から直線末脚勝負のパワースポットには展開が向かなかった。今回も最後方からの追走だったが、ペースを読んだ岩田康誠騎手は早めに進出し、3〜4コーナー中間で4番手まで押し上げていた。上り3Fは当然のことながらメンバー中最速で、唯一37秒台の脚を使ったが、前3頭が止まらない流れではどうにもならない。それでも3着のノットオーソリティには半馬身差で、勝ち馬からもコンマ3秒差。たとえば年明け、TCK女王盃に出走してくれば、直線の長い大井ということでは期待できそう。ただ、今回休んでいたこの路線の常連が出走してくると、限られた中央の出走枠に入れるかどうかは微妙なところ。
フォローハートも同じ。向正面では縦長の中団を追走し、4コーナーではパワースポットからさらに2〜3馬身ほどもうしろという位置からでは届かない。
ノットオーソリティ以外の地方馬で見どころがあったのは、金沢から遠征のセイカフォルトゥナ。やや離れた4番手を追走し、直線では一杯になっての8着。前走兵庫クイーンカップでは逃げて惜しくもクビ差2着だったが、ここを経験してのパワーアップには期待できる。
人気では中央4頭が上位を占めたが、5番人気ノットオーソリティ、6番人気セイカフォルトゥナは、それぞれ馬の所属とは違う地区の騎手が騎乗していた。以前では考えられなかったほど騎手の移動が自由になって、おもしろい時代になったものと思う。ただそのぶん、中央のみならず地方でも若手騎手にとっては騎乗機会を得るのも大変なのだが。