森泰斗騎手(写真はNARグランプリ2015にて)
森泰斗騎手「周りの方々が本当にサポートしてくれるので、恩返ししたいという気持ちが強いですね」
赤見:2015年全国リーディングおめでとうございます。
森:ありがとうございます。気持ち的にはホッとしたっていうのが一番ですね。2014年に南関東リーディングを獲らせてもらったんですけど全国リーディングは4位(1位田中学騎手、2位木村健騎手、3位川原正一騎手)で…。南関東は開催日数が圧倒的に多いのに、南関東リーディングで全国リーディングじゃないっていうのも、ちょっとみっともないなって思っていたので、なんとしても全国リーディングをと思っていました。目標を達成できて、すごく嬉しかったです。ただ、確定したのは12月31日ですから、次の日からはまた0からのスタートになるので、大喜びするって感じでもなかったです。
赤見:どの辺りからいけるなと思いました?
森:兵庫のすごい人たちが迫って来ていたので、12月に入るまではわからなかったですね。12月に入って差が広がったので、これはひょっとしたらと思いました。正直ね、兵庫の人たちがめちゃくちゃ勝つので厳しいかなという気持ちもあったんですけど、なんとしても自分が獲らなくちゃと思っていました。夏くらいから南関東のリーディングは差を広げることができたので、あとはもう兵庫の方たちの成績をチェックしてましたね(笑)。川原さん木村さん田中さんと本当にすごいですから。去年は田中さんと木村さんがお休みしていた時期もあったので、そういう意味では僕に流れが向いたのかなっていう部分もありますね。
赤見:南関東では2013年に戸崎圭太騎手がJRAに移籍して、次のリーディングが確定するまで混戦模様でした。
森:もちろん自分がっていう気持ちも持っていましたし、周りの方からも応援してもらいました。やっぱり周りの人にすごく支えられたし、迷惑もかけてしまったんですけど、いい馬に乗せてもらったというのが一番ですね。上位はタイミング一つと、その年の流れとかで入れ替わるポジションだと思っているし、自分自身頭一つ出たとは思っていないです。
赤見:そして去年は地元船橋でもリーディングを獲りました。実は船橋リーディングは初めてだったんですよね?
森:はい、やっと獲れました! ずっと大井のジョッキーが船橋のリーディングだったので、地元の意地を見せたいと思ってやって来ました。石崎隆之騎手以来10何年ぶりくらいに船橋所属の騎手がリーディングを獲れたということで、すごく嬉しかったです。
赤見:森騎手は千葉県出身ですけれども、もともとのデビューは栃木でしたね。
森:僕は一般家庭から地方競馬教養センターを受けたので、競馬関係者に知り合いがいなかったんですよ。センターにいる頃に、栃木の先生にスカウトしてもらって、それで栃木所属になったんです。南関東はレベルが高くて若手のチャンスも少ないですから、今思えばたくさん乗せてもらって経験もできたし、それが良かったと思います。
赤見:若い頃にはだいぶやんちゃもしましたよね(笑)。
森:ひどかったですよね(苦笑)。ホントめちゃくちゃでした。騎手免許を持っていなかった時期があったわけですから(デビュー1年後に騎手免許を返上)。上手くいかないし、もういいやと思っちゃったんですよね。だけど今思えば、デビューしたばっかりでバンバン乗せてもらえるはずもないし、甘かったです。18、19歳の時ですね。騎手を辞めて外の世界を経験して、「やっぱりこれしかないな」と思って1年で戻りました。
赤見:そこからがまた試練の連続で…。
森:足利が廃止(2003年)になった時はまだ楽観していたんです。宇都宮はなくならないだろうって、特に深刻には考えていなくて。そこから成績が上がってきて、いよいよリーディング獲りという時に宇都宮の廃止(2005年)が決まったんですよ。これはいよいよ困ったぞと。まだ24、25歳で若かったので、移籍先を探して縁があって船橋に行けることになりました。
赤見:最初の頃は騎乗回数が激減して大変そうでした。
森:そうですね。僕には何のネームバリューもなかったし、当時は自信過剰だったんですけど、自分が思っているより技術も甘かったんです。今思えば乗せてもらえないのも当然かなと思いますね。
赤見:辞めたいと思ったことはなかったですか?
森:ありましたよ。2006年とか2007年くらいですね。なかなかチャンスをもらえないし、腐って行く一方で…。「もう辞めます」ってメールを作成して、送信ボタンまで指が掛かったんですけど、「これ押したら本当に戻れないぞ」と思ったら押せなかったです。1回辞めてる身でもあるし。
赤見:そこからどうやって気持ちを切り替えたんですか?
森:まだ精いっぱいやってないなと思ったんです。もう一回精いっぱいやって、できること全部やってみようと。それでダメなら諦めが付くかなって思って。よく恵まれた環境とか言いますけど、周りを見てても出てくる人はどんな状況でも出てくるんですよね。要は本人次第。どれだけ真剣に頑張れるかなんだと思います。
赤見:移籍して10年経ちました。振り返ってみていかがですか?
森:大変だったなっていうのが一番ですね。リーディング獲ったからって、やったー! とか嬉しい! っていう感情だけじゃなくて、大変だったな、苦しかったなっていう気持ちもあって。それはこれからも続くんだろうなと思います。でも周りの方々が本当にサポートしてくれるので、恩返ししたいという気持ちが強いですね。
赤見:2015年は、地方競馬教養センターで同期生だった戸崎騎手がJRAリーディングを獲りました。同期でJRAと地方のリーディングってすごいですよね。
地方競馬教養センターで戸崎騎手と同期生だった森泰斗騎手
森:なかなかないですよね。昔から彼はすごく高みにいるし、特別意識はしていないです。今も仲良くて会えばいっぱい話すんですけど、今はもう土俵が違うのでJRAのジョッキーという感じで接してます。
赤見:これからは地方を背負う看板ジョッキーですね。
森:大丈夫ですかね、僕で(笑)。プレッシャーはもちろん感じますし、頑張らなければいけないなとも思います。ただ、去年も思ったんですけどあんまり自分自身を追い込むのは経験上良くないなというのがあるので、意識しつつもフラットな精神状態でいたいなと思っています。
赤見:では、今後の目標を教えて下さい。
森:南関東で3年連続リーディングが獲りたいですし、全国リーディングも狙っていきたいと思ってます。あと東京ダービーを勝ちたいですね。南関東でジョッキーをやっている限りはそこが最高峰だと思うので。的場文男さんでさえ勝ってないんですからね。2着9回って、それはそれですごいですよね。的場さんにはずっと乗ってて欲しいです。体造りもすごいし、モチベーションの維持もすごいんですよ。的場さんがダービー乗ってると盛り上がりますし。去年のダービーなんか、2着でしたけどものすごい執念を感じました。今年は2人で東京ダービーでバトルできるよう頑張ります!