とても意義のある“日高生産育成馬”ディーマジェスティの皐月賞制覇(村本浩平)
◆期待の意味も込めて、指名しておくべきではないだろうか
今年の牡馬、牝馬それぞれのクラシックレース一冠目が終わった。桜花賞を制したのは千歳・社台ファームの生産、育成馬であるジュエラー(牝3、藤岡)。皐月賞を制したのは新ひだか・服部牧場が生産、日高・ファンタスト木村牧場で育成が行われたディーマジェスティ(牡3、二ノ宮)だった。
生産牧場となった服部牧場としては、実に20年ぶりとなるGI制覇。その20年前のGIレースもまた、皐月賞(イシノサンデー)だった。一方、ファンタスト木村牧場にとっては、2010年の宝塚記念(ナカヤマフェスタ)以来のGI制覇となったが、クラシックレースは初めてとなる。
ディーマジェスティ、ナカヤマフェスタ共に二ノ宮厩舎の管理馬。その2頭の先輩で、現役時にはジャパンカップなどGIを3勝。日本調教馬としては初めて凱旋門賞で連対(2着)を果たしたエルコンドルパサーもまた、ファンタスト木村牧場の育成馬である。
今年のクラシックは桜花賞、皐月賞共に、社台グループの生産、育成馬が数多く出走している。その中では数少ないと存在となった日高地区の生産馬で、なおかつ日高地区の育成牧場で鍛えられたディーマジェスティがクラシックを制したことは、生産界にはとても意義のあることだと言える。
現在の社台グループの隆盛は、優秀な繁殖を揃えて、その繁殖にディープインパクトといったトップサイアーを配合。母胎、当歳、イヤリングと情報を共有しながら一貫性のある管理を行った上で、トップサイアー産駒の特徴を良く掴んでいるスタッフがいる育成厩舎へと移動。入厩の前にはノーザンファームしがらき、ノーザンファーム天栄、山元トレーニングセンターといった牧場でも、より入厩に属した管理が行われることだろう。
一方、日高地区の生産馬たちは、オーナーや厩舎によっては、様々な育成牧場での管理を余儀なくされる。生産者と育成関係者が情報の共有を図れていれば、その後の管理もスムーズに進むかも知れないが、ほとんどの馬が移動の時点で血統や馬体といった目に見える情報しか持ち合わせていない。勿論、生産牧場から育成牧場への入厩時期や成長過程もバラバラであり、一貫性のある管理をすることは非常に難しい。
しかしながら、服部牧場はイシノサンデーが活躍した以降も、血統の更新や預託馬の繋養を積極的に行い、当歳やイヤリングの管理を含め、更なる強い馬作りに取り組んできた。優れた資質だけでなく充分な体力や精神力を備えた馬を、エルコンドルパサー、ナカヤマフェスタを育てた高い技術力に加え、二ノ宮厩舎との深い結びつきを持つファンタスト木村牧場が育成したからこそ、ディーマジェスティは皐月賞馬になったとも言える。
POG的には社台グループの生産育成馬を選ぶのは戦略として間違ってはいない。それでも、過去に活躍馬を送り出しただけでなく、その後もコンスタントにオープンや重賞レースを沸かせてきた牧場の生産馬。なおかつ、これまでにGI馬を送り出してきたように、「強い馬を見極めてきた」育成牧場で育てられた日高生産育成馬もまた、これからの生産界に対する期待の意味も込めて、指名しておくべきではないだろうか。
その意味では、ディーマジェスティの全兄弟となるエルメスティアラの14(牡、父ディープインパクト・二ノ宮)は、まさに日高生産育成馬の活躍する方程式に当てはまった馬と言えるだろう。
「ディーマジェスティよりも軽さがあり、より父ディープインパクトらしさが出た印象があります。それでいながら、乗り味は兄と共通する安定感がありますね」
とはファンタスト木村牧場の川嶋秀人場長。これまでの管理馬の成績が証明しているように、ファンタスト木村牧場と二ノ宮厩舎の結びつきは強く、エルメスティアラの14にとっても、成長に合わせた最高のタイミングで入厩し、ベストな状態でデビューすることができそうだ。兄が日本ダービーを湧かした後は、弟が来年のクラシックまでどのように歩んでいくかを、今年のドラフト指名馬とした上で注目してもらいたい。