◆攻めの姿勢を貫き、始動戦を迎える
トップに立ってしまえば、自然と守りに入ってしまうもの。だが、頂点を極めてもなお、攻めの姿勢を貫いてこそ、真の王者と呼ぶにふさわしい。新たにGIに昇格した第61回大阪杯(4月2日=阪神芝内2000メートル)で、2017年の始動となる、昨年のJRA年度代表馬キタサンブラックがまさにそれ。衝撃情報をキャッチした栗東の坂路野郎・高岡功記者の確信リポートをたっぷりとお届けする。
かつてスパルタ調教で知られた故戸山為夫調教師は、坂路を1日に3〜4本乗るインターバル調教で管理馬を徹底的に鍛え上げ、1992年の皐月賞、日本ダービーなど、GI3勝(重賞5勝)を挙げたミホノブルボンをはじめとする名馬を数多く育て上げた。
「ミホノブルボンと俺がやってたフジヤマケンザン(重賞5勝)が“坂路の申し子”ってよく言われたものだけどね。それ以外の馬も全部ハードに乗っていたんだ。坂路2本目に15-15をやって、4本目に追い切りとか。しかも4本目でも“テンから出して行け”って言うもんだから、馬がバタバタになるだけでなく、人の方もバテる。乗ってて今、何本目なのか…分からない時すらあったくらいだよ」
当時の調教をこう振り返るのは戸山キュウ舎でフジヤマケンザンなどを担当した、現石坂キュウ舎の久保助手だ。当時でも坂路を1日4本も乗るキュウ舎は他にはなかったそうだが、全長が延び、調教方法も変化した今は、3本乗りすら見たことがない。
だからこそ「キタサンブラックが今、坂路を3本乗っているらしい」という話を聞いた時は、にわかには信じがたかった。美浦では以前、大久保洋キュウ舎などが3本乗っていたが、より勾配のきつい栗東の坂路では、2本乗りのキュウ舎すら少なくなった時代にまさか…。
しかし、キタサンブラックは本当に坂路3本乗りを行っていた。今月4日、10日、18日と、坂路で3本キャンターを乗っているのが記録として確認できるのだ。
「そこまで大げさなことをしているつもりはないんですけどね。この馬にとっては(2本では)負荷がかからないと思ったので、3本乗ってもらっているだけ。週に1回のことですし、もちろん抜くところは抜いていますから」とは管理する清水久調教師。
もともと清水久キュウ舎は週中と週末の週2回、しっかり追い切る調整パターンが多く、栗東ではハードに調教するキュウ舎として知られている。
「人で言えば、オリンピック選手がトレーニングを休んだりしますか?ということなんです。それでなくてもサラブレッドは(トレセンが全休の)月曜は運動ができないわけですから。馬も人と同じで、トレーニングで鍛えてこそ、強くなるんです」
その考えはまさに戸山調教師の信念でもあった「鍛えて最強馬をつくる」と同じだ。だからこそ坂路3本乗りも、ごく普通に取り入れることができるのだろう。
「年度代表馬になったわけですし、どこに行っても、それに恥じない競馬をしないといけないですからね。休み明けの今回もしっかり走れる状態になっています」
この中間は「テンションがやや高い」と不安視する情報が耳に入ってこないこともないが、同じような声が聞こえていた昨年暮れの有馬記念でも、サトノダイヤモンドとの壮絶な叩き合いでクビ差2着に走っていることを思えば、さしたる不安要素でもなかろう。
2016年の競馬シーンのトップを走り、栄えあるタイトルを獲得したキタサンブラック。それでもなお、攻めの姿勢を貫き、17年の始動戦を迎えようとしていることを確認できた坂路野郎は、この馬こそが、やはり大阪杯の主役になると確信した次第である。(栗東の坂路野郎・高岡功)
【掲載場所変更のお知らせ】
当コラムは毎週水曜日掲載の『吉田竜作マル秘週報』を除き、2017年4月よりニュース枠にて連載いたします。なお、各掲載日時に変更はございません。引き続き、「東スポ×netkeibaコラボ」のご愛読をよろしくお願いいたします。
netkeiba編集部