▲川又賢治騎手の目標が福永騎手、今週は新人騎手にまつわるユーザー質問
騎手として成功するには、総合力の高さが必要な時代
Q. 新人の川又賢治騎手が、目標の騎手として福永騎手の名前を挙げていました。やはりそういった場面で名前が挙がるのは嬉しいものですか? また、将来的に伸びる子と伸びない子は、どういった差があると思いますか? 賢治が所属している森厩舎のスタッフのなかに自分の親戚がいることと、森調教師にはデビュー当時からずっと可愛がってもらっていた流れで、賢治が競馬学校生の頃から「祐一、頼むな」と託されていて、騎乗や木馬の乗り方などを時折見る機会があった。
競馬学校生のカリキュラムのひとつに、競馬開催日に先輩ジョッキーに付いて一日勉強をするというものがあるのだが、その時も賢治を引き受け、パトロールビデオを見ながら「なぜ負けたのか」「どうするべきだったのか」など、勝敗を分けたポイントを伝えたりした。
おそらく、そういった関わりがあったことで、自分の名前を挙げてくれたのだと思うが、もちろんそれは素直に嬉しいし、その思いに恥じないよう、より一層、頑張らなくてはいけないなと気が引き締まる瞬間でもある。
▲栗東所属 (左から)川又賢治騎手、富田暁騎手 (C)netkeiba
(→川又賢治騎手のインタビューも公開中!) ちなみに「騎手付き研修」とは、まず競馬学校から騎手クラブに依頼がきて、騎手クラブから各ジョッキーに打診される。受けるも断るもこちら次第だが、自分はなるべく引き受けるようにしていて、引き受けたからにはその一日を無駄にしないよう、自分なりに伝えるべきことはきちんと伝えているつもりだ。
その内容は、細かい騎乗技術云々よりも、パトロールビデオを見ながらの実践的な解説のほか、減量期間の過ごし方や意識の持ち方などが中心。もちろん、命令的な指導ではなく、あくまで自分が「ああしておけば良かったな」と思うことなど経験則がベースであり、「俺はこうしたほうがいいと思うよ」というアドバイスに過ぎず、それをどう受け取るかも個人の自由だ。ただ、賢治に限らず、縁あってそういう機会があった新人には、いいジョッキーになってほしいなという思いは常に持っている。
▲美浦所属 (左から)木幡育也騎手、武藤雅騎手、横山武史騎手 (C)netkeiba
最近の新人の印象としては、総じて真面目。向上心も高いし、いろいろな誘惑に負けない芯の強さを持っている子が多い。賢治もそうだが、ちょっとしたアドバイスも真摯に受け止めて、技術向上のために貪欲に取り入れていく。それぞれが「巧くなりたい」という強い気持ちを持っているのが伝わってくるし、今後、JRAを引っ張っていく人材として、彼らなら大丈夫だろうと頼もしい思いで見ている。
将来的に伸びる子と伸びない子の差については、やはり“意識の差”が大きいように思う。高い意識を持って、5年後、10年後の自分をどう描けるか──。自分は一時、諦めかけた時期があり、そういう時を経て今があるだけに、なおさらそう思うのかもしれない。
もちろん、優れた感覚やセンスは重要で、それが突出したものであれば、感性だけでトップジョッキーになれるかもしれない。ただ、このコラムでも散々書いてきたが、少なくとも自分はそういうタイプではなかった。やはり、人も馬と同様に個体差があり、それぞれに合ったやり方を見つけることが重要で、自分がここまで来られたことを考えると、自分に合った手段を模索し続ける気持ち、そしてそれを察知するアンテナの感度は、常に保っておくべき重要なポイントだと思う。
新人がデビューして、一見してわかるのが「鞍はまり」の善し悪し。「鞍はまり」とは、主に下半身の安定感を指すのだが、体型によって多少見え方が違うとしても、やはりそこはセンスを感じる部分である。ずっと見てきて何となく思うのは、最初から「鞍はまり」のいい子よりも、最初はもうひとつでも、そこから徐々に変わってくる子のほうが、のちのち目を引く騎乗を見せるようになる気がする。徐々に変わってきたということは、自ら何かに気付いて修正したということであり、そういった意識が、何となく乗っている「最初から巧い子」を超えていくケースを度々目にしてきた。
騎手として成功するには、やはり総合力の高さが必要な時代だと思う。また、自分がどうなりたいか、そのためには何をするべきか──がむしゃらななかでも、それが明確な子とそうでない子では、近い将来、大きな差が付いてくる。それに気付けるか気付けないかが、先述した“意識の差”。技術があってこその世界ではあるが、自分の意識ひとつで景色が変わってくるのもまた事実。ほかでもない自分自身がそうだったし、だからこそ、早くから明確な意識を持つことの重要性を伝えたいと思っている。
(文中敬称略)
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